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未生流東重甫

8月の花:撫子(ナデシコ)


「暦の上では秋を迎えているのに、まだまだ暑い日が続きますね!」、なんて言葉をよく耳にします。五節句の七夕祭りは、新暦の7月7日に催されるところが多いようですが、有名な仙台の七夕祭りは8月7日(旧暦の七夕)に行われます。以前のコラム「五節句の花」で説明していますが、未生流では初秋の花を飾りますので七夕は秋の節句になりますが、7月7日でも8月7日でも真夏の真っただ中であることには変わりありません。そんな時に観賞する人が少しでも涼しく感じてくれればと、初秋の花を飾り秋の予感を感じさせた花をいけます。もちろん、7月7日には秋の七草は中々揃いません。萩と尾花葛は葉だけ、女郎花(おみなえし)と藤袴はそもそも見当たらず、かろうじて撫子(なでしこ)、桔梗(ききょう)が店先にあるくらいです。今月は、この撫子についてお話ししようと思います。 撫子は、被子植物、真正双子葉類、ナデシコ目、ナデシコ科、ナデシコ属(Dianthus)に分類される植物の総称です。ナデシコ属は、がく筒が草質で多数の脈があり、基部に1対から数対の苞を持つのが特徴です。世界に300種ほどあり、属名のディアントゥスは、ギリシャ語の「ディオス(dios=天の、神々しい)」と「アントス(anthos=花)」を組み合わせたものです。 別名には、あめりかそう、あめりかなでしこ、かわらなでしこ、からなでしこ、せきちく、ちちこぐさ、ちゃせんばな、とこなつ、ところてんばな、とまりぐさ、なかひこ、なつかみぐさ、のなでしこ、ひくれぐさ、やまとなでしこ、天菊、句麦、地麪、錦竹、聖隆蘢、繍竹等があります。 万葉集(7~8世紀)に11首詠まれている歌の1つに「野辺見れば撫子の花咲にけりわが待つ秋は近づくらしも」(作者不詳 巻10―1972)があります。また、古今和歌集(913~914)には、中国原産のセキチク(カラナデシコ)が渡来してかヤマトナデシコと読んでいます。さらに枕草子(996~1008)には、「草の花はなでしこ。唐のはさらなり、大和のもいとめでたし」と書かれています。以上のことから、セキチクは万葉集以降に中国から渡来したと考えられます。 ちなみに、現在は撫子の4種が自生し、1種が帰化しています。 カワラナデシコDianthus superbus var.longicalycinusは、河原や山麓の日当たりのよい草地や石場に生える多年草で、。高さは40~80cm、茎や葉は粉白色をおびています。がく筒は長さ3~4cm、基部に3~4対の短い苞があり、花弁の上部は平開して、細かく房のように切れ込むのが特徴です。花期は7~10月、本州から九州までのほか、朝鮮半島、中国台湾に分布しています。 エゾカワラナデシコvar.superbusは、がく筒の長さ2~3cm、苞は通常2対とされ、ユーラシアの温帯から亜熱帯にかけて広く分布しています。なお、多くの標本から苞の数は安定した形態とは言えず、カワラナデシコとの区別は明確ではありません。がく筒の長さで短いものをエゾナデシコとみるのが良いとされます。 タカネナデシコvar.speciosahaは、花弁が大きく直径6~7cmの豪華な花つける高山植物で、高さ10~30cmにもなります。エゾナデシコと同様、日本からヨーロッパまで広く分布しています。 シナノナデシコD.shinanensisは、日本固有種で、開けた河原や岩上に生え、愛知、岐阜、福井の3県を除く中部地方に分布しています。カワラナデシコとは異なり、花弁の切れ込みは浅く、苞の先は長く尾状に伸びます。この種は一般の花図書に多年草と書かれていますが、長野県での観察によれば、実生から育った1年目の株はロゼットで越冬し、翌年の夏に開花結実して9 月頃株全体が枯死する事が確かめられています。したがってシナノナデシコは数少ない真正二年草の1つです。 ハマナデシコ D.japonicusとヒメハマナデシコ D.kiusianusはその名の通り海浜に生え、海浜植物の例に違わず葉は厚く光沢があります。多年草で花期は6月~10月で、花弁の切れ込みは浅く、高さ15~50cmで、1茎につく花は多く苞の先は長く伸びます。本州から琉球諸島、中国に分布しています。 ヒメハマナデシコは、高さ10~30cm、花の数は1~6個で苞の先は短い針状となります。和歌山、四国、九州、沖縄に分布しています。 ノハラナデシコ D.armeriaは、帰化植物で、ヨーロッパ原産の1年草又は越年草です。茎や葉に毛が多く、苞は3対あり、先ががく筒と同じ長さまで伸びるのが特徴です。1966年栃木県那須、翌年長野県木曽で野生化が見つかり、以後所々で見かけるようになりました。 この他、タカネナデシコ、ヨーロッパ原産のディアントス・アルビヌス、ホソバナデシコ、ヒメナデシコ、ホタルナデシコ、タツタナデシコ、ディアントス・シルウェストリス、など多くの種が園芸植物として導入されており、さらにこれらが交雑親として幾つもの園芸品種が生み出されています。 以上のように撫子は最近1年中店先を賑わせてくれますが、我々が想像する大和撫子のような撫子、いわゆる河原撫子のように花茎の細い可憐な花は山間で静かには咲いているのでしょうが、実際は手に入れにくいものです。 ≪いけばなとナデシコ≫ 秋の七草の1つとして知られています。また、万葉集 山上憶良が巻八‐一五三八に「萩の花尾花葛花瞿麦の花 女郎花また藤袴朝貌の花」と詠んでいることでも有名です。 未生流では伝書「体用相応の巻」の「段取り挿け方の心得」として、羽衣草、小車草、弁慶草、繍線菊しもつけ、小菊、瞿麦、藤袴、男郎花、女郎花の9種で説明があります。段取りとは、細かい花が集まって咲いた状態の花で一輪ずつ数えられないものの一塊を一段として考える、というものです。他にもこんな花があれば例にならっていけなさいと説明されていますので勉強になると思います。 この時期に欠く事の出来ない愛らしい応合い花で、色もピンクから赤が多いです。芒(すすき)や刈萱(かるかや)、木賊(とくさ)などに株分けで、又太藺などに水陸分けで水辺近くに優しく応合いたい花です。 いけばなとして、寄せ挿けなどではセキチクのようにしっかりした撫子を用いますが、やはりなでしこの代名詞はヤマトナデシコです。格花の応合い、新花の涼やかな応合いとして貴重な花です。用いる時には茎の細さを感じさせるように、花が優しく浮いているように心がけるとより雰囲気が出ます。

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