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  • 未生流東重甫

11月の花:木賊(トクサ)


2018年11月の花 <木賊(トクサ)>

今年の秋は例年になく台風や地震の連続で滅入る日が続きました。被災された方にはお見舞い申し上げます。

さて、秋も深まりいよいよ11月で今年の秋の集大成です。

11月の別名には霜月、霜降月、神楽月、神帰月、雪待月(以上和名)、子月、建子月、晷雉(きち)、黄鐘、仲冬、暢月、辜月、龍潜月(以上漢名)等があります。他にも色々ありますが、用いられている漢字から何となく意味を感じる事が出来ます。なお、季節の挨拶に深秋の候、初霜の候、初冬の候、向寒の候などがあります。

11月の行事に子供の成長を祝う千歳あめで知られる七五三がありますが、未生流の伝書にも髪置(かみおき:3歳の女子の行事)、袴着(はかまぎ:5歳の男子の行事)の花があります。これらの行事は11月15日に行われます。

そして11月の24節気はいよいよ7日が立冬(10月節)、22日が小雪(10月中)となり、季節は初冬に入ります。真っ赤に燃え盛るような紅葉の時期には歩くのもままならない所へ出掛ける人、人、人の状態になるのが珍しくないですが、冬支度をする木々達からどのような光景に映っているのでしょうか。

今月の花は、そうした雑踏から遠ざかり、少し侘び寂にも似た花である木賊(トクサ)を紹介します。

<木賊(トクサ)>

木賊は、シダ植物門、トクサ網、トクサ目、トクサ科、トクサ属に分類される植物です。。

 属名のトクサは「馬の毛」を意味し、古代ギリシャの植物学者がミズドクサの水中にある茎に生じる黒い根に因んでつけた名に由来します。約3億年前の古生代石炭紀に繫茂し、石炭のもとになった植物であるカラミテス科などの化石植物を含めてトクサ網とすることが有る。トクサ属はその唯一の生き残りであり、最も長く生き続けている維管束植物の属の1つです。また、トクサ属には、スギナ、ヒメドクサ、チシマヒメドクサ、ミズドクサ、フサスギナ、イヌスギナ、ヤチスギナなどがあります。なお、トクサ科はトクサ属だけからなります。オーストラリアとニュージーランドを除く世界各地に15種あり、そのうち日本には9種が自生しています。湿地、湖畔、河岸などの湿った場所に自生していることが多いです。

木賊の学名はEquisetum hyemale L、和名はトクサ。別名には、しもと、つぎくさ、つくし、つぐし、つくしんぼ、つめとぎ、つめみがき、とぐさ、とくさ、はぐさ、はすり、はすりぎ、はすりぐさ、とくき、はぐさ、はすり、はすりぎ、はすりぐさ、はぶらし、はみがき、ほたるくさ、みかきくさ、やすりぐさ、銼草等があります。数多くの別名から、庶民の身近で親しまれた植物であることが伺えます。

木賊は、地下茎が5~7mm、高さが1m程にもなります。暗緑色の地下茎は分岐せずに直立し、その先端に胞子嚢穂がつきます。茎は表面にある珪酸のせいでざらついていますが、トクサはそれが顕著で研磨用に用いられたため「砥草」の名がついた常緑性です。ちなみに類似でトクサ属のスギナは夏緑生です。古来、茎を煮立て乾燥させたものを研磨用として用いられ、タンス・つげ櫛・漆器など木加工品の仕上げ研磨用とされていました。

<いけばなと木賊>

未生流では伝書に、以下の説明があります。

花器は据物、応合いは四季とも艶しき草花を遣うべし。若芽のある時は株を分けて出生を顕わす。

常緑の物は季節感が無く、応合う花で季節感を表現すると同時に和む花をいけます。

トクサには太藺と同じく刈り込んだ景色を挿けることがありますが、これを「木賊狩り」と言い、能の題材の「木賊」にも出てきます。歌舞伎や長唄にもなっています。木賊刈の季語は秋です。

木賊を狩る場合、太藺と異なり茎に繊維があるため真っ直ぐに引いて切ることは出来ません。1本ずつなら手前に引いたりして切ることもありますが、束ねて斜め向こうに切るのが一般的です。

生け花で表現する場合も、何本かを一束にして斜に切り口を揃えて美しく表現します。新花で自然観を求めて表現しても、木賊自体で季節感や自然との関わりを表現することは難しく、格花同様応合いで表現しなくてはなりません。

まれに2mにもなる長い茎、茎表面の細い縦の線、節の面白さなど見た目の美と、茎の節感が空洞であったり、硬い表面を持ち縦の繊維がしっかりしていたり、茎の内側と外側の違いなど、目に見えない多くの美を持っています。

特徴のある花材ですので、造形手法で自由に持ち味を表現したいものです。その特徴を表現して思いがけない美しい作品が生まれるかもしれません。

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