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  • 未生流東重甫

6月の花:柘榴(ザクロ)


2017年6月の花 <柘榴(ざくろ)>

5月は木々の新芽が美しく、その姿に山々が喜びの身支度をしている様で幸せ感が溢れてきます。毎年新芽を見ると心がウキウキ踊り、車の運転が楽しくなるような気になります。今年は木々が新芽で装う時期にハンドルを握る事が多く、十分目を楽しませて頂いたのですが、そういえば去年も「今年は“特に”美しく見える」と感じていたことを思い出しました。

5月に入ると木の葉がしっかり成長して本来の美しい新緑が目にまぶしい季節となり、春の花から霧島躑躅(きりしまつつじ)、牡丹、常盤万作(ときわまんさく)、花水木、藤、桐、大手毬、と初夏の訪れを告げるように咲き誇る多くの花の美しさに目を奪われます。

石楠花や紫陽花が咲き始めると、庭の姫柘榴が可愛いオレンジの花を1つ、2つと花を付け始めます。夏にも似た陽射しの中に健気に咲く柘榴の花は美しいもので、今月はこの柘榴をご紹介します。

なお、柘榴といえば、秋に真っ赤な透明感のある果肉が画題にもよく取り入れられており、京都の華道会で中国成安の花会に参加した折、お借りした花器の絵柄が柘榴で縁起の良い絵柄であると説明されたことを思い出します。

 柘榴は、被子植物、真正双子葉類、フトモモ目、ミソハギ科、ザクロ属(ザクロ属2種の内の1種)に分類される落葉小高木で、学名をPunica granatum I.、英名をpomegranateと言います。また、別名にはいろたま、じゃくろ、柘榴、石榴、安石榴、安榴、銀礫、火珠、丹若、安石榴花、前紅綪、紅中、紅裙、紅瓠襄、榴花、ちょうせんざくろ、なんきんざくろ等があります。

 日本には9世紀に朝鮮から、10世紀に中国からの両渡来説があり、果樹、あるいは薬用、観賞用として何世紀にもわたり熱帯から亜熱帯の国々で栽培されてきました。特に、地中海地域で普及しており、スペインの都市グラナダの名はそこでできる美味しい柘榴にちなんだものです。

柘榴は、野生状態では刺の多い低木ですが、栽培すれば刺も少なく高さ6mにもなり、栽培種では、矮小型の姫ザクロや八重咲きの花ザクロが創られています。

庭などに植えられると、6mから10mにも達するものもあり、若枝には棘があって葉は対生します。小枝の先に1個から数個の花を6~7月頃につけ、屈曲する古枝から若枝が伸びて柔らかく枝垂れ、肉厚のがく筒の先は5~7裂します。

がく筒も花弁も朱赤色の花を咲かせ、遠目に見てもよく目立ちます。この他に白、黄、赤にやや花が大きめの白覆輪の花色もあり、八重咲の品種もあります。

 10月頃になる果実は直径6cm前後のオレンジくらいの大きさで、種子の外皮は透明な淡紅色、多汁質で甘酸っぱく、生食のほか、清涼飲料の原料にもなります。

ちなみに、柘榴の果実は多くの民間伝承に登場するだけでなく、希望や不死を表す象徴としても広く用いられています。ギリシャ神話やローマ神話にも現れ、バビロンの空中庭園に植えられていたといわれています。ソロモン王(イスラエルの王、紀元前10世紀頃)の寺院の柱には、ヘブライ人による柘榴の果実の彫刻があり、初期のペルシャ織物の図案にも用いられていました。アジアでは子孫繁栄、豊穣の象徴でもありました。

<いけばなと柘榴>

観賞用のザクロを「花ザクロ」、実を目的とするものを「実ザクロ」と区別して呼ぶこともあります。姫柘榴は矮小種で鉢植えにもします。

幹はよく分枝し、葉は短い柄を持ち長楕円形で全緑、光沢があり、若枝の下部に棘があります。梅雨の頃、筒状のがくが付いた6弁化を開き、果実は球形で熟すと裂開し、淡紅色の種子を現します。

葉の時期の水揚げは難しく、根元を炭化するまで焼くか、細かく割りを入れて焼きミョウバンをすり込み、深水に養うことで改善します。なお、実の時期は不要です。

奔放な枝ぶりを活かし、おおらかに挿けたいものです。前述のとおり、光沢のある葉と花の時期は水揚げが難しいので水からあげた状態で長くおかずに速やかに水に浸けます。

葉の時期は、棘が葉に隠れているので注意が必要と同時に、三光(地水火)の枝葉を忘れてはなりません。枝を曲げる時も枝を濡らして常に水を切らさないように注意します。花の時期もまた、葉の時期同様、枝ぶりを活かしながら速やかにいけます。実の時期は、実が重いので少し小さめの実を選びいける方が良いです。掛け花器や寄せ筒、3 重5重などの横姿にいける方が楽に表現できます。

姫柘榴は花も小さめで可愛く、あまり違和感なく竪姿にいける事が出来ます。実は瓶花で表現することが望ましいです。花器は備前や信楽、丹波のような土ものに秋草を取り合わせ挿けたい。

葉であれ、実であれ、その特徴を活かす器を選び、花を取り合わせることが表現の第一です。1輪2輪と咲くオレンジの花が、葉に見え隠れしている姿が健気で可愛いです。

今年も楽しみな季節がやってきました。

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