2016年12月 今月の花 <万両、千両、百両、十両、一両>
1年12ヵ月24節気72候、まさに光陰矢のごとし、過ぎていく速さを今更に感じています。今年は急な冷え込みで美しい紅葉を観ることもでき、秋の視覚の楽しみをそれなりに味わうことが出来ました。そして、もちろん秋の味覚、匂い、秋風がささやく声も幸せなひと時として味わうことが出来ました。ただ、夏と秋、秋と冬の境目を感じることは少し難しかったかなと思います。年々短くなっているなと感じる初秋から冬装備へと移りゆく中で爽やかな秋の気候は、今年も簡単に過ぎていきました。そして、紅葉が過ぎるともう慌ただしく年末の訪れです。
1年の中での1時期であるのに、年末になると文字通り気忙しく感じるのは歴史からでしょうか。ただ、個人的にはこの慌ただしさは次への一歩と感じています。
民家でお正月にいけばなを飾る風習は江戸期からといわれています。また、この頃から生花店がビジネスとして出現してきたようです。
お正月の飾り物の草花には松竹梅を始め、数多くの花がありますが、そんな中から今月は言葉遊びのような花で「千両、万両あり通し」と縁起物の花の万両(まんりょう)、千両(せんりょう)、百両(ひゃくりょう)、十両(じゅうりょう)、一両(いちりょう)をご紹介します。
まず、万両、千両、百両、十両、一両の植物学的な特徴は次のとおりです。
万両は、関東地方以西の本州、四国、九州、南洋諸島から台湾、中国大陸、インドにまで分布しています。
茎は1m程の高さで直立し、上部で数本の枝を分かちます。花は、前年に伸びた短枝の先につき、冬になると8mm程の赤い実を付けます。この実は熟すと目立ちますが、不味いため鳥は食べません。雪で作るウサギの目玉に使われる赤い実はこの万両です。また、黄色い実のキミノマンリョウや白い実のシロミノマンリョウもあり、観賞用として鉢植えにも植えられています。
千両は、赤い果実と緑の葉との対比の美しさから、ヤブコウジ科の万両と並び称されることが多いです。
また、千両は、被子植物には珍しく裸子植物同様の仮導管で、この植物の原始性を表すと考えられていました。しかし、最近のデータでは最初から導管がなかったのではなく、かつてはあったものが何らかの理由で二次的に導管を無くしたと考えられています。
日本では、関東地方以西の照葉森林の林床に見られ、高さ80cm程になり、葉は革質で光沢があり、先は鋭く尖り、縁には鋸歯があります。花は6~7月に咲き、6mm程の果実は冬に赤く熟します。果実が黄色の物はキミノセンリョウと呼ばれ、千両とともに観賞用に庭木や切り花にします。
百両は、唐橘(からたちばな)の別名があり、江戸期には非常に貴重なもので、百両以下では手に入れる事が出来ないことから「百両金」とも呼ばれました。
万両に似て葉が尖り、茎から枝が出ず、葉は互生し、縁はごく浅い鋸葉になっています。花は、白色で7月頃咲き、11月頃に約7mmの果実が真っ赤に熟して春まで落ちません。
十両は、生育場所と実のかたちにちなんで藪柑子(やぶこうじ)とも呼ばれます。日本のお正月には、松竹梅や福寿草とともに赤い実をつけた十両が門口を飾ります。晩秋に鮮紅色に熟す果実は寒い冬の間もそのまま落ちずに残って美しいため正月の飾りになったのではないでしょうか。
十両は北海道の奥尻島から本州、四国、九州に広く生育し、台湾中国大陸にも分布しています。地面をはう茎から、高さ10~30cmの直立する茎を出します。葉の一部は互生しますが、ほとんどは3~4枚の葉が輪生状につきます。夏には昨年伸びた枝の葉腋から出る散形花序に数個の花がつき、晩秋に6mm程の果実になります。
一両は、蟻通し(ありどおし)という別名があり、この由来は、「棘が蟻も突き通すので蟻通し」や「鋭い棘が多いのでその下を蟻は通すが他は通さない」の他に「赤い実のなる期間が長いので有り通し」などがあります。
分布は、関東以西、四国、九州、朝鮮半島、中国、インドに及びます。
高さは50cm程度で、主茎はまっすぐに伸びますが、脇枝が分岐して横に広がります。葉は対生した2cmほどの卵型で葉質は硬く光沢があり水平に広がります。同じように2cm程度の鋭い棘を垂直に出します。また、5月頃6mmの花をつけ、実は冬に赤く熟します。
お正月の花として用いられるのは「千両万両有り通し」、福福しくて良いものですね!
<いけばなとの関わり>
先述のとおり、万両、千両、十両、一両は同じ種ではありません。この中でも千両は、濃い緑の葉を持つ枝の先に10~20粒程の真っ赤な実をつけ、見た目にも美しくお正月花としては欠かせないものになっています。
千両はいけばなでも一種挿け、寄せ挿け、応合いと様々な使い方が出来ます。また、若松や梅、蝋梅などと投げ入れや盛り花にも使われます。水揚げも比較的よく、水を欠かさなければ2か月も持ちます。切り口を割ると水揚げはよくなります。
一方で万両は、一種挿けとして品の良いものですが、あまり美しいものではないのであまりいけられることはありません。
なお、百両、十両、一両は縁起物として寄せ植えなどに植えられますが、いけばなでは一種挿けとしては使われることはなく、広口での応合い(あしらい)などに使うことが多いようです。また、一両は棘がある事から、調伏の花として客席に出すことはありませんので、現代花の応合いに遣う程度でしょう。