2016年9月 今月のコラム <据物取扱いの心得>
先日、39.2度の記録的暑さが報告されました。この気温はどこまで上がるのでしょうか。ここまで高温な日が続くと、ついつい水物が恋しくなります。水物といっても食する物もあれば、ミストのように肌で感じるもの、水琴窟のように聴覚に訴える涼しさもあります。 夕方になると、門先に水を打つ姿も見受けられます。なんと涼しげな光景だろうと感じつつも、アスファルトに水では逆効果を懸念してしまいます。
いけばなでも、涼しさの演出は色々あります。 器に水を打つのもその1つですが、常から考えられているおもてなしの心には自然の中に溶け込んだ心遣いがあります。四季足水の心得の「暑中は11分に注ぐ」がこれに当たります。これは、目に涼しさを訴える役目があり、水の役目は草木を養うだけでなく、いけた花を見て頂く方へ涼しさを与える役目も持っています。 というわけで、今月は水辺を多く見せながらも景色的にも涼やかに表現できる広口(奥行き、幅がある背の低い器)などの「据物」についてご紹介しましょう。
花器は、形や用い方で分類されています。これまでご紹介した置き花器、掛け花器、吊り花器と同様、据物は水盤や広口のように水辺を多く見せる器で、いけばなの基本的な花器ともいえるものです。 据物の材質も様々で、陶磁器、木製、竹製、銅製、塗り物などがあり、花台や敷板に載せて、床の間に飾るとされています。 据物の中でも、盥(たらい)や馬盥は元来の使用目的が足を洗ったり、馬に水をやったり洗ったりするのに遣うもので花台に載せたり床に飾ったりはすることはありません。ただし、盥、馬盥ともに唐金や陶磁器、塗物で蒔絵など施したものは上品な品として花台や敷板に載せて床に置くことも許されています。 器の大きさは様々で、稽古に用いる陶器の水盤は直径30cm程度から小さいものから大きなものだけでなく、丸、四角、長方形と変形花器も含めると本当に多様です。未生流では桐の広口(縦横の比が1:√2)の大きさが決められていて、これはかなり奥深い花器になります。 この奥深さこそが景色を美しく表現できる形であるとともに、観て美しい形の花器になります。
<器といけばな> 据物花器と花姿の大きさの関係ですが、長方形の広口(横幅:差し渡し=10:7)は差し渡しの3倍の寸法にいけます。なお、一株が小さいときは、二株三株と挿けて寸尺を合せます。また、器が丸や楕円形の場合は、円周の2/3が花姿の大きさとされています。 以上のとおり、基本的な寸法は決められていますが、優しい草花や華奢な木物と松や杉のように先端まで力強い木では器との釣り合いの寸法は異なります。 基本を踏まえ、釣り合いのとれた花姿をいけることが望まれます。