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未生流東重甫

8月の花:葛(クズ)


2016年8月 今月の花 < 葛(くず)>

「今年の夏は今までで一番暑い!」と毎年のように天気予報などで言われていますが、今年は 台風の発生が7月に入ってからの第一号と例年に比べてずいぶん遅いこともあり、かなり暑い夏が素人でも予想されます。今年に限らず、気候の変化が気にはなりますが、自然を受け入れるしかありません。 8月に入ると、すぐ立秋を迎えて暦上は秋となり、自然に目にするものにも秋の気配を感じます。七夕祭りが盛大に催される日が暦の上では秋の始まりになります。 7月の花のコラムは秋の七草の中から「萩」でしたが、今月も続いて秋の七草から「葛(くず)」をご紹介します。

葛といえば、この時期楽しみなのが葛きりです。京都のお菓子屋さんに行くと、冷たい葛きりが売られていて、黒蜜をかけてツルツルっと頂く喉越しの葛切りはこの時期の最高のご馳走です。葛の花はあまり美しいものではありせんが、万葉集に17首も詠まれているところから古代の人たちも山肌に咲く少し大振りの葉が風に揺れる姿に涼を感じたのかもしれません。

葛は、被子植物、真正双子葉類、バラ類、マメ科、インゲンマメ連、ダイズ亜連、クズ属に分類されるつる性多年草で、学名はPueraria lobate、英名はkudzuです。和名の葛は、かつて大和国(現在の奈良県)吉野の国栖(くず)という地名が葛粉の産地だったことに由来するといわれています。別名には、葛蔓(くずかずら)、かずら、葉の裏面が白く目立つことから裏見草などとも呼ばれます。 万葉集をはじめとする多くに歌集や文学作品に登場します。

花は7月から9月に甘い香りのある蝶形花(ちょうけいか)が下から咲きあがっていきます。葉は小さく2~3裂する小葉を付けて幅広く大きく、葉の裏面は白い毛が密生して白色を帯びています。 クズ属は、アジア原産で17種が西インドからヒマラヤ、中国、朝鮮半島、日本に分布します。この他、世界各地で飼料や砂防用として栽培されています。なお、日本ではクズとタイワンクズ(奄美大島・徳之島に分布)の2種があります。

また、葛根(かっこん)としてよく知られている葛の肥大した根は発汗作用や鎮痛作用があり、古くから生薬として用いられてきました。食料としては、太く長い根から良質のでんぷん(葛粉)が多く、葛根湯や葛餅、葛きりなどのお菓子やなべ料理など料理にも使われています。衣料や生活用品としても、古く新石器時代からつるを利用してその繊維から葛布を作ったり、つるを乾燥させ籠などを作ったりしたといわれています。また、飼料として牛や馬・ヤギなどが食料としています。 自然とのかかわりの中、葛も他の秋の七草と同様に様々な用途で生活に利用されてきました。

<いけばなと葛> 水揚げは難しく切り口を砕いて、重曹をすり込むという説と、比較的水揚げは良く水切りか切り口を砕くという説がありますが、ほとんどの植物は朝早く切り、すぐに水揚げをすると養えるものです。

いけばなとしては、応合い(あしらい)として大いに役立ちます。葉の小さめのものを選ぶと良いでしょう。七草をいける場合や、秋草に加えて大籠に盛るようにいけると映ります。 ちなみに葛に限らずつる物は、掛け花器や釣り花器に挿けると風情が表現しやすくなります。 掛け花器に垂れ下がる小さめの葉の1枚1枚が物語るように配して涼しさが倍増です。裏と表の色が違う葛は、少し裏の色を見せることも大切な表現の1つです。

photo by Forest and Kim Starr on Flickr

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