5月下旬にもなると山々の色合いも新緑から濃い緑へと山笑う時期の木々の躍動感溢れる姿から、落ち着いた大人の雰囲気を感じさせられます。6月を迎え、里には色鮮やかな木々が目立ち始め、紫陽花(あじさい)や柿、柘榴(ざくろ)、水芙蓉(すいふよう)、夏椿(なつつばき)、山法師(やまぼうし)、ライラック等、多くの花を咲かせます。ちょうど今頃から暑い夏を含め、その名のとおり3ヵ月ほど咲き続ける花、百日紅(さるすべり)を今月の花としてご紹介します。
百日紅は、被子植物、双子葉類、バラ類、フトモモ目、ミソハギ科、サルスベリ属に分類される落葉中高木です。名前の漢字は花期の長さにちなむもので、和名の由来は古く薄い樹皮が幹の成長に随い剥がれやすく平滑なので木登りの上手な猿でも滑ってしまう状態からきています。 学名はLagerstroemia indica、英名はCrape-myrtle、別名には白痒樹、痒痒樹、クスグリノキ(すべすべした木肌を掻くと枝がくすぐったそうに動く意味)などがあります。 サルスベリ属は東アジア、東南アジアからオーストラリアにかけて約30種が分布しますが、中国原産であり、日本には少なくとも江戸時代初期には渡来していました。
木の高さは、2~10mの低木で、花の色は白、紫紅、濃紅、紅、桃などの赤系の色です。花は、枝の先端に円錐花序を付け、直径3~4cmの花がたくさんつきます。花弁は縮れた6枚で、基部は糸状になります。多数の雄蕊の外側の6本は葯が長く紫色、これ以外は短く黄色く、受精するのは紫色の方の花粉です。なお、受粉しない花粉は、花粉を運んでくれる蜂の餌になります。 南西諸島や台湾に見られるシマサルスベリは、庭園や街路樹に用いられることがあります。また、オオサルスベリはインド、インドシナ半島からマレーシア、オーストラリアにかけて分布し、街路樹としても植えられています。その名の通り花は5~8cmもあり、円錐花序は長さ30cmほどもあります。こちらは材質が硬く、家具材や建築材として用いられています。日本でも街路樹はもちろんのこと、お寺や民家の庭樹として多く見受けられます。
夏空に自由に枝を伸ばし、その先端に花を咲かせる姿に、子供が遊ぶ姿のような微笑ましい様子が漂います。 百日紅を題材にした加賀千代女(かがのちよじょ)の俳句があります。
散れば咲 散れば咲して 百日紅
この歌からは、次々に咲かせる花の妖艶さだけでなく、生き方すらも揶揄しているような気がします。この歌のように毎年新しいことに挑戦し、美しい花を咲かせ続けていきたいものです。
<いけばなと百日紅> 百日紅は、盛り花や現代花では枝や花を楽しく使うことが出来ます。ただし、立花で用いたとしても「さる」「すべる」などを名に含むことから、「非祝言」とする考えもありますので注意が必要です。 また、格花では曲げたりすることが容易にできないことから、あまり使うことはありませんが、古く若枝の伸びていない締まった枝を利用していけることがあります。 いけばなは花を活かす事が望まれます。花のみではなく、いけた花によって人の心が安らぐならその場を活かすことになります。自分の楽しみは残った花でいい、いける以上は花にも人にも喜んで頂けるいけばなにしたいものです。 世間で流行の「おもてなし」も使い方を間違えるとただの自己満足となるので気をつけたいものです。
photo by Toshihiro Gamo on Flickr