春には河岸や池畔に桜と垂れ柳の美の競演がよく見られます。桜並木と川の流れは春の美の象徴、そこに優雅な柳の緑の流れが風になびくのは風流なものです。 京都の鴨川沿いの垂れ柳と枝垂れ桜が順に並んでいる景色が私は好きです。 枝垂れ柳は、春から夏に掛けて緑が美しいものですが、葉の無い時期も風にたわむ姿は風情があります。 いけばなでは、色んな種類の柳をいけますが、髪置きの花の様に祝いの席にもいけられています。 今月は少々季節の先取りになりますが柳をご紹介します。
柳は、被子植物門、双子葉植物網、ビワモドキ亜網、ヤナギ目、ヤナギ科、ヤナギ属に分類される樹木の総称です。英名をWillow、日本では柳と言えば一般的にシダレヤナギを指し、シダレヤナギ種はWeeping Willowといいます。 柳は、奈良時代に中国より渡来し、現在日本には30種を超えるヤナギ属の種類があります。ちなみに、ユキヤナギはバラ科シモツケ属の落葉低木で、別名シジミバナ、コゴメバナなどといい、ヤナギの種ではありません。 また、柳は古く奈良時代以前から奈伎良(ナギラ)とも呼ばれていました。 ヤナギは柳とも楊とも書きますが、これは、柳は垂れるヤナギ、楊は竪伸びるヤナギを表現します。 先述のとおり、柳と言えば街路樹や公園樹の垂れ柳が代表的ですが、いけばなでは幹がくねった雲竜柳を始め、赤芽柳、黒芽柳、川原柳、行李柳、石化柳、小豆柳、枝が垂れた柳も大垂れ、中垂れ、小垂れ等に分けて用います。 ヤナギの葉は、一般的には細長い葉が思い浮かびますが、円形や楕円形の葉を持つ種もあります。稽古花としてよく用いられる赤芽柳は、マルバヤナギともいい、名前のとおり葉が丸い形をしています。
柳の利用には古くから様々な用途で用いられており、空海が中国を訪れていた時代には長安では旅立つ人に柳の枝を折って手渡し送る習慣がありました。また、柳の枝や葉にはサルチル酸を含んでいる事から解熱鎮痛薬として用いられ、後にアスピリンが作られることになりました。日本においても枝が歯痛止めや爪楊枝の材料として用いられました。なお、葉には多くのビタミンCが含まれています。
<いけばなと柳> 稽古に用いる柳の種類は多くありますが、特に「伝書体用相応の巻」では、銀柳、米柳の数挿け、猫柳の玉取り、水潜り、糸柳(垂れ柳)長閑の景色挿け、春風の景色挿け、雪中の景色挿けの三景。綰柳(かんりゅう)の挿け方について記載があります。また、「伝書草木養いの巻」には、雨中の柳の挿け方等、多くの挿け方について説明が成されています。 伝書体用相応の巻の説明は以下のとおりです。
行李柳数挿け・・・・・・応合いは葉物、草物見計らい遣うべし、木物は椿にても無用。 銀柳・米柳の数挿け・・・応合いは葉物、草物見計らい遣うべし、木物は不要。 猫柳玉取り挿け・・・・・応合いは葉物、草物。 猫柳水潜り挿け・・・・・応合いは水辺に杜若、陸に陸物草花。 糸柳長閑の景色挿け・・・応合いは春を感じさせる曙椿など。 糸柳春風に随う景色挿け・応合いは椿、千両他華奢なものを遣う。 糸柳雪中の景色挿け・・・応合いを遣う事悪し。 綰柳挿け・・二重の場合下口に白玉椿(霜囲いの葉を備う)、船の場合椿を帆花に遣う。
応合いとは、体の後控の位置あたりから留の奥添えあたりに、据え物なら株を分けていけることもあります。 季節感や景色をより風情豊かにするものです。どんなロケーションでの花を表現したいかで応合いは変わります。脇役の協力があって主役が引き立つものです。