今月は、この時期、淡い桃色の優しい花を咲かせて心和ませてくれる草花の1つである下野草(しもつけそう)を紹介します。 下野草は、下野(しもつけ)と間違いやすいですが、名前のとおり下野草は草とつくように草木であり、下野は木です。 下野草は、日本固有種で、バラ科シモツケソウ属に分類される多年草で、学名をFilipendula multijuga、別名を草下野といいます。属名のFilipendulaは、「糸が垂れ下がる」という意味で、雄しべの様子を表し、散房状の花弁に無数の紅紫色の小さな花をつけますが、この花が散った後には雄しべが垂れ下がって脱落します。なお、シモツケソウ属は、世界で16種類といわれ、このうちの12種類が日本・台湾・中国・ヒマラヤを含む東アジア植物区系にあり、その他の4種のうち2種は、北アメリカにあり、オレゴンシモツケソウとアメリカシモツケソウといいます。特に、アメリカシモツケソウは英名プレーリー・クイーン(草原の女王)と称され、絶滅危惧種に指定されています。そして、残りの2種はシベリア西部・ヨ―ロッパ中南部の内陸部に分布するセイヨウナツユキソウとクロベンシモツケソウです。 また、下野草の近縁種には、キョウガノコ、コシジシモツケソウ、アカバナシモツケソウ、エゾノシモツケソウ、オニシモツケソウ等があり、中でもキョウガノコは葉緑体のDNAからコシジシモツケソウと最も近縁といわれています。 また、花言葉には穏やか、たおやかな風景、整然とした愛、努力、余裕、自由、気まま、遊びなどがあります。 ちなみに下野草と混同しやすい下野ですが、こちらはバラ科シモツケ属の落葉低木で日本各地・中国や朝鮮の山野に自生しています。和名は下野の国(現在の栃木県)に多く産したことに由来し、別名「木下野」とも称します。同じシモツケ属には、コデマリ、ユキヤナギ、ホザキシモツケ、マルバシモツケ、エゾシモツケ、エゾシロバナシモツケ、イワシモツケ、トサシモツケ、イブキシモツケ、アイジシモツケ、イワガサなどがあげられます。 <いけばなと下野草> 1種でいけても美しいものですが、通常は他の主材に対する応合い(あしらい)的に使われることが多いようです。 伝書「体用相応の巻」の段取り挿け方の心得9箇条として、羽衣草・小車草・弁慶草・小菊・瞿麦(なでしこ)、藤袴、男郎花(おとこえし)、女郎花(おみなえし)、繍線菊(しもつけ)の9種の花の説明が成されています。 特徴は、細かい花の集合したものの一塊を1輪とみなす事です。その1輪の先端部が平らな感じになるので1段、2段と数えます。 水揚げ(みずあげ:切り花を長持ちさせるための処理)は、切り口に焼きミョウバンをこすり付けたり、切り口を焼いたりします。速やかにいければ水は上がりますが、応急処置として切り口の煮沸と逆水(さかみず:花を逆さに持ち、葉の裏に水をたっぷりとかける)で大丈夫です。 野に咲く下野の風情を感じながらいけて下さい。
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