今月は、太田道灌(おおたどうかん・室町時代後期の武将)の逸話*で有名な山吹を紹介します。山吹は、六玉川(むたまがわ・古歌に詠まれた6つの玉川)の1つで京都山城国(現在の綴喜郡井手町)井出の玉川**でも一般的に知られています。 山吹は、学名をKerria Japonica、英名をJapanese Kerria,Japanese Roseとする双子葉植物網に分類されるバラ科ヤマブキ属の落葉低木です。その名前のとおり、山吹は日本原産(中国にもあります)で、古くから親しまれていました。面影草(おもかげぐさ)という別名もあり、花言葉には気品、崇高、高尚、待ちかねる、金運などがあります。 山吹の名前の由来には、しなやかに揺れる枝の様子を「山振り」といい、万葉集にも「山吹」を「山振り」と詠まれた歌がありますがそれが転じて山吹、となった説があります。なお、別の一説に、山の中で黄色い蕗に似た花を咲かせるためという説や「山春黄」が略されたという説もあります。 また、先にも少しふれたとおり、山吹は万葉集や源氏物語にも登場します。近年では松尾芭蕉が
ほろほろと 山吹散るか 滝の音
と詠みました。この「ほろほろと」と散る花弁の描写が趣しろく、我々が知るところとなっています。 山吹の花びらは単弁(5枚)と八重があり、八重咲きには実は出来ません。なお、別属で花弁4枚のシロヤマブキがありますが、山吹ではないので注意して下さい。シロヤマブキは日本では岡山県にのみ自生していますが、花木として庭で栽培されることも珍しくないです。 山吹の背丈は1~2メートル程で、地下茎を横に伸ばし、明るい林の木陰などに群生します。葉は柔らかく鋸歯で、茎は空洞で白いスポンジ質のものが詰まっており、この茎を使って鉄砲の様に飛ばして遊んだ記憶があります。 <いけばなと山吹> 山吹の花は一重と八重咲きがあり、一般的には八重咲きの品種が好まれ、栽培種も多いようですが、未生流では一重咲きのものを使い、加えて六玉川の景色挿けを思い浮かべます。また、伝書「体用相応の巻」の中で、「山吹玉川景色挿け方の心得」として次のような説明があります。 この棣棠(やまぶき)は水の流れを愛するの挿け方なれば、広口(ひろくち・花器の1つ)の中は黒白の砂利にて川の景色を移し、蛇籠二つ三つにて留める。 なお、未生流では、白砂利は陸を、黒砂利は水を表します。また、川の流れは、花器の向かい角から反対側手前の角に取る事で流れの美しさを表現します。真横に黒砂利を配置すると流れが無い物と考えます。 山吹のいけ方は、名前の由来、山振りから考えられるように、ふらふらとしており立ち難いものですが、上手く利用して優しげな花姿にいけたいものです。茎の中が空洞であるため、中々水があがらないものですが、焼きミョウバンを切り口に磨り込むこと、あまり長く水から上げないことです。 *:後拾遺和歌集の「七重八重 花は咲けども 山吹の実の一つだに なきぞ悲しき」にかけた山間の農家で逸話 **:藤原俊成の「こまとめて なほ水かはむ 山吹の 花の露そう 井出の玉川」