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未生流東重甫

3月の花:春蘭(シュンラン)


今月は春に咲く蘭、春蘭(しゅんらん)を紹介します。 春蘭は、単子葉植物ラン科、セッコク亜科シュンラン属多年草で学名はCymbidium goeringii、別名にホクロ・ジジババなどがあります。この名前の由来は諸説あり、花の形からきたとも言われています。また、花言葉には気品・清純があります。 春蘭は、一般的に東洋蘭の一種で、中国から渡来した蘭が主の栽培種ですが、日本に自生している蘭も多く、日本春蘭として区別されるようになったのは明治時代以降です。 葉は、根出葉(こんしゅつよう:葉が地表からでるもの)で硬めで細長く、若い葉は立ち上がり、その後成長すると垂れて曲線を描くような葉になります。この直立する葉と曲線を描く葉が交差する性質をとらえ、映し出したのが南画(なんが:江戸時代中期以降の画派・画様の用語。文人画。)であり、この姿を未生流では鳳眼(ほうがん)と称し、春蘭をいける時は必ず形作ります。ちなみに、南画の画題「四君子 竹・梅・菊・蘭」の中の一種で、黄山谷(おうさんこく)が愛した花とされており、広く文人墨客にも愛された植物であることから着物や陶器の図柄にも多く用いられています。 花は、3月から4月に向かい合う葉の横から花茎を伸ばし、先端に花を付けます。1花が普通ですが、2花か3花つけるものもあります。普通種の花は白く、花弁の先端に濃赤紫の斑点がはいります。山草や東洋ランとして栽培種も多く出回っており、斑点の無い素心(そしん)系や、赤花系などがあります。 古くから身近な山にありふれた野生の蘭であり、太い根を蒸すまたは焼いてひび、あかぎれの手当てに用いていました。 また、花は茹でて酢の物に、あるいは塩漬けにしたものは「蘭湯」としてお祝い事に、その他蘭茶や吸い物に使います。 <いけばなと春蘭> 未生流では、伝書「体用相応の巻」に『段取り物・藺物・数挿け物(かずいけもの)・軸付葉物(じくつきはもの)・葉物・長葉物』として、草花の生育状態で分けて説明がされていますが、その中の杜若や水仙と同じ長葉物として蘭について以下の説明がされています。 五葉一花の挿け方は、用(よう)に皮肉骨の備わりたる(反りの有)葉を入れ、添えに直なる葉を入れる。この二葉にて鳳眼を取る。体(たい)に勢い強気葉を入れ、添えにひらりと後ろへ返りたる葉を遣い、留(とめ)に直なる葉を入れ、体添えの葉と鳳眼を取る。 このいけ方が蘭の葉の特徴をとらえた表現であり、南画の手法から取ったものです。 一般的に、草花の数え方は一株(ひとかぶ)、二株(ふたかぶ)ですが、蘭の場合は、他の草花とことなり一株を一篠(ひとしの)、二篠(ふたしの)と数えます。また、水仙は一元(ひともと・いちげん)、二元(ふたもと・にげん)と数えます。同じ長葉物でも数え方がそれぞれ異なるのは興味深いです。 なお、春蘭はあまり大きく成長するものではありませんので、器も春蘭に合ったものを選び大切に扱っていけて下さい。

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