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6月の花:夏椿(婆羅樹:シャラノキ)

未生流東重甫

ついこないだ桜が咲いたと思っていたところですが、先週より6月に入りました。今年は例年よりも早く5月に梅雨入りした地域も多いため、梅雨といえば6月、6月といえば梅雨という季節感をあまり感じないかもしれません。 さて、学生や社会人の方の中にはお気づきの方もいらっしゃると思いますが、6月は1年を通して唯一の祭日がない月という特徴の他に「水無月(みなづき)」「松風月(まつかぜづき)」「常夏月(とこなつづき)」「風待月(かぜまちつき)」「田無月(たなしづき)」といった別名があります。 また、24節気では芒種(ぼうしゅ)6日と夏至21日、その他にも衣替えや雑節(ざっせつ:季節の移り変わりを把握するためのもの)入梅(にゅうばい)11日頃、そして(母の日に比べて忘れられがちな日ですが)父の日といった行事があります。 6月を代表する花にはアジサイやクチナシ等がありますが、今月は6月から7月に咲く夏椿(ナツツバキ)についてお話しします。 夏椿は、ツバキ科ナツツバキ属の落葉高木で、花言葉は、愛らしさ・愛らしい人・哀愁等があります。 花の形が椿によく似ており、花は白色5弁で椿より薄く、丸い小さな花の蕾を小枝の付け根に幾つかつけます。椿の時期を過ぎて暑い時期に涼しげに白い花を咲かせます。 一般的に「沙羅双樹(シャラソウジュ)」(フタバガキ科)と間違えられて呼ばれることが多いようですが、全く別の植物です。仏教の聖樹である沙羅双樹は、インドから東南アジアに分布しており、耐寒性が弱いため日本の風土では育ち難く、温室が必要になります。 ちなみに沙羅双樹は、釈迦の入滅(にゅうめつ:死去)の時、臥床の四辺にあったという4双8本の沙羅樹のことで、最後の説法の後涅槃(ねはん)に入ったとされる木です。説法の際、満開の花を咲かせ、釈迦の入滅とともにたちまちに枯れ、その白い花がさながら鶴の群れのごとくであったといわれており、鶴林(かくりん)とも呼ばれています。日本のお寺に多く見られる夏椿は、この沙羅双樹の代用種として植えられているようです。京都妙心寺東林院の夏椿は特に有名ですので、一度訪れてみるのもよいかもしれません。 「祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし たけき者もついには滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ」は、有名な平家物語の冒頭の一説ですが上述の伝承に基づいていると言われています。 なお、「祇園精舎」とは京都の祇園さんの事かと思っていたのは私だけでは無いと思いますが、インドのお寺を指すそうです。 <いけばなと夏椿> ほとんど花の時期を終えた花木の中で、優しい緑の葉に白い花を咲かせる夏椿はいけて清々しいものです。少し屈曲しながらまっすぐに伸びる枝は、揉め(ため)やすいとは言えません。丁寧に揉めないと真っすぐに戻ってしまいます。 葉を透かしたり多く残したりしながら、風の通る様な作品にしたいものです。

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