5月は端午の節句のコラムでも菖蒲を紹介していますが、今は一般的に菖蒲と言えば花菖蒲をさします。花菖蒲といえば、「菖蒲・アヤメ・杜若(かきつばた)」の3つの花が連想される方もいらっしゃると思います。この3種の花は凛とした美しい姿をもち、見分け難しいと思われがちなのですが、実は葉にそれぞれ特徴があり、そこまで見分けがつかないわけではありません。まずは花菖蒲についてお話ししましょう。 花菖蒲は、アヤメ科アヤメ属に分類されるノハナショウブの園芸品種で、5月から6月に花を咲かせます。花の色は白、青、紫、黄と多数あり、絞り、覆輪との組み合わせを含めると約5,000種類あるといわれています。園芸品種を大別すると、以下の3系統に分類されます。 江戸系:江戸では花菖蒲の栽培が盛んで、花比べや花自慢を楽しんでいたといわれており、さらに江戸中期には花菖蒲園が葛飾堀切に開かれ浮世絵にも描かれた名所となりました。旗本松平定朝(菖公)300近い品種を作りだし、「花菖培養録」を残しています。こうして江戸で完成された品種群が栽培品種の基礎となっています。 肥後系:熊本藩細川斎護が藩士を菖公のところに弟子入りさせ、門外不出を条件に譲り受けたものが改良栽培されたもので、肥後六花の1つ。 伊勢種:伊勢松坂の紀州藩士吉井定五郎により独自に改良した品種群。1952年に「イセショウブ」の名称で三重県天然記念物となり、全国に知られるようになりました。 以上の3種の他に長井古種があり、これはは山形県長井市で栽培されてきたものです。1962年に上記の3系統のいずれにも属さない品種群が偶然確認され、長い古種と命名されたものです。 最初に菖蒲・アヤメ・杜若の花を見分けることは遠目には難しいものと言いましたが、近くで見ますと花の大きさや花茎の節、花の高さ、葉の色、つや、硬さ等の違いがはっきり確認できます。花の名前にもなっているアヤメとは、花弁の内側に黄色い網目模様があり、この網目を文目(あやめ)ととらえてアヤメと言います。また、出生の地(自然に生えている場所)も少し違います。

*:未生流では春の杜若は葉より低く咲き、夏の花は葉より高く伸びるととらえいけます.
花菖蒲は大変美しく、北は北海道から南は九州まで「花菖蒲園」として多い所では100万本以上も咲かせている所があり、鎌倉市の明月院など関東から近畿にでは菖蒲園としての名所も多くあります。 5月から6月にかけて咲く花菖蒲を一度は楽しみたいものです。 <花菖蒲といけばな> 未生流では花菖蒲は、「陸物がくもの」として取りあつかいます(杜若などの水物は基本的に枝花がなく、1株に花1輪としますが陸物には枝花がある事が多いです)。 花菖蒲をいける際に、1株に花2本を枝花のように配すことがあります。葉組の仕方は杜若と同じです。出生から葉先の爪が向かい合うようにいけ、これが基本の2枚組となり、短い方を手前に重ねるように組みます。3枚組の場合は、向かい合う葉のうちから長い方の爪に向き合うように3枚目を出し、2枚の奥から1番短くなるように組みます**。 花は葉より高く、葉と10:8~7の高さとなるように配します。 主に葉の美しさを表現する杜若に対して、花菖蒲は花の美しさを表現します。 初夏を迎えるに当たり、水辺の涼やかさを感じる事が出来る花菖蒲は多くの人々に好まれている花の1つです。 **:他流では中の葉を高くなるように組むとすることもあります。
