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未生流東重甫

第6回 未生流傳書三才の巻 《虚実等分・勾弦三才》

2024年8月 今月のコラム


今月も未生流伝書三才の巻の序説に出る耳慣れない言葉を取り上げ、解りやすく説明していきます。

伝書と聞くと難しいと耳をふさぐ傾向にありますが、現在の未生流の伝書は読みやすく珍しい漢字には読み仮名があり、備考欄に説明もあります。言葉の意味さえ解れば又耳に慣れれば自然に心に入るものと思います。それでは今月も序説から理解し難い言葉を取り上げます。


  1. 虚実等分

ホームページのコラムで一度通読しましたが、荒木白鳳著の華道玄解には次のようにあります。


虚とは広大無辺、大宇宙の精神、未生自然の精神、絶対的世界の事

実とは万物の形体を指す。現象天体、地球、動物、鉱物他現象界


また、いけばな百練には以下のように記載されています。


虚実とは造花と同ふして猶表裏陰陽の如し

「造」は作り出す、例えば春に花葉を生ずるが如し

「化」とは消え失せ又は形をかゆるの類なり。冬に至れば落花落葉あるが如し

造は実にゆき、化は虚にゆく。

化あるが故につくり出して止事なし、

造あるが故に化々して止事なし


なお、秘伝の体用論の中にこんな説明があります。


自然の草木は実であって、これを伐り縦横勾弦の法形を備え、花葉を透かし、直立した枝葉を曲げ、曲がった枝葉を揉め、水際を締めて生けることは虚であり、虚の力が働くことである。しかしそれは生花としての形が備えられるものであって、そこには美が生まれる、それは実である。

この虚と実とが会い交じって等しく働くことを虚実等分という。


いけて美が生じることを実とする考えは、伝書三才の巻 序説にある「人も生まれながらにして人倫の教えなければ例え美服をまといても愚頑無骨の輩ならん。されば高位貴人の前に出ること能わず、先ず人倫の道をもしり礼儀をも弁えたる上にて美服を着し法正しくしぬれば、聖賢の前に出るとも何ぞ恥ずる事あらんや。」に通じるもので、出生の実を失わず法を守りて虚を備え、花瓶に移したる処即ち虚実等分にして華道の本意である。と説かれています。


また、伝書「体用相應之巻」に「虚実の論」として説かれている文面があります。


出生の儘の直なる枝は実にて詠め少き故に文たる虚を備え曲をもたしめ、皮肉骨調えば万人これに進む。故に虚は実となるなり。虚実文質彬々*たる処これ万物一切の法なり


本性そのままを実とし、知識や姿を整える事は虚である。しかし、三才の巻序説にあるように人倫の教え無ければ実であっても愚頑無骨の輩に等しいと説いています。


*:文質彬々とは論語にある「質勝レ文則野 文勝レ質則史 然後君子」のこと。“本能が知識に勝てば野蛮人、知識が本能に勝てば見栄っ張りな嫌みな人。知識と本能が上手く調和して始めて君子と言える、という意味です。


を挿ける、特に杜若の葉組みで虚実という言葉が多く出ます。又アマリリスやアガパンサスのように出生の葉が左右二方に分かれて出る葉においても葉組の虚実と云う言葉が能く出ます。

「実」すなわち出生の姿でいけるのも良いのですが、美しくいけることが望まれている挿花ですので、葉組を美しく見せるために出生ではないつかい方を加えるのが虚実です。実際ではあり得ない姿ですが、より自然に実際より美しい葉組をする事を「虚」といいます、つまり、葉組の場合「虚」とは「美」ということになります。


  1. 「勾弦三才」 

基本花形を形成する根本として、天円地方の原理から生まれた花矩と、その花矩が生まれた三才格の構成と、三才格の調和による陰陽虚実の和合と三つの要素を挙げることができます。

「勾弦」とは、天地和合の姿のことで三角鱗(さんかくうろこ)のことです。その形は前著の「縦横勾弦」の説明と同じですが、その形に三才の役枝のところの思想的な根拠であると同時に形式的な根拠であって、自らそこに統一せられ和の世界であるところの形をなすものです。


草木の色のうるはしき形の清らかなる、天地間これにまさるものなし、然れど是を挿花となすに其の法形なくんばあるべからず、故に形を調うるに未生自然の花矩をもって三才のくらいをたて、陰陽の通いをもって、虚実の理を弁え和合を調えて是を挿花の法とす。(挿花百練より引用)


野鶴齊玄甫は次のように述べています。


「三才とは太極・無極として混沌とした宇宙の中で、軽く清らかなものは天となり、重く濁れるものは塊りて地となります。そこに天地(両義)が開けて陰陽となり、やがて天地を通徹するとして人の働きを加え三才説の完成となります。」


天は無辺に開けてはてしなく光を放ち雨を降らせる、その恩恵の偉大さを崇拝したところから始まり、地は天の恩恵をしっかり受け止め全てのものを育む徳を持ち、農耕民族である人がその働きにより、天の恵みと地の徳を引き出すところから天恵地徳人動三つの働きと説かれ、その三才を花形に反映させ縦横勾弦に配したものが三才格となり、未生流の花形の基本となるものです。


いけばなはまずこの勾弦三才の姿をいけます。三才の形の意味を習いながら形にいける技術を学びます。この基本的な技術をしっかり身につけ、心の表現に気がついた時、自然と三才の意味が腑に落ちるようになります。

形にいける稽古より、意味を挿ける大切さを学んでいただけると嬉しく思います。


それでは今月はここまで、来月のコラムでは「法形」から進みます。

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