top of page
  • 未生流東重甫

11月の花:木瓜(ボケ)


2016年11月 今月の花 <木瓜(ぼけ)>

長かった夏も終わり、錦秋の季節をあちこちで感じさせてくれる時期になりました。秋の深まりは冬への誘いです。燃えるような紅葉が散りゆく景色に秋と冬との狭間を垣間見ますが、季節の移り変わりを、顕著に感じることは難しいものです。ただ、幸せなことに季節ごとの楽しみは今も多くあります。行事で感じる季節はもちろんのこと、色や風、匂い、流れ来る音、そして食生活で感じる季節等、色んなところから独自の物を運んできます。自然に季節の中の自分がいて、さらに季節を感じる素晴らしさを喜びとして表現できれば幸せだと思います。

さいわい、いけばなに携わる我々にとっては季節とは親密な間柄にあります。今月ご紹介する花の木瓜(ぼけ)は、名前を聞くとあまり嬉しくないものですが、花は華やかではないものの、美しいものですし、実の匂いは甘く、また心安らぐものです。 木瓜は、被子植物、真正双子葉類、バラ目、バラ科、サクラ亜科、リンゴ連、木瓜属に分類される落葉低木で、学名をChaenomeles speciosa、英名をFlowering quinceまたは「ジャポニカ」とも呼ばれます。果実が瓜に似ており、木になる瓜で木瓜(もけ)と呼ばれたものが、モケ、モッケ、ボックワと呼ばれ、転訛してボケになったようです。 樹高は3m程度で、枝にトゲがあります。葉は、卵型や楕円形で長さ4~8cm、花は葉に先駆けて直径2.5cm位の大きさで、色は白、淡紅、赤、緋色、オレンジなど様々です。 花が咲いた後、球形・楕円形の長さ4~7cmの大きさの果実をつけます。この果実には、酒石酸やリンゴ酸を含んでいることから香りがよく、砂糖煮にしたり果実酒に使われます。

原産は中国ですが、日本には平安時代には伝来しており、現在は固有種のクサボケが本州から九州の丘陵地に自生しています。また、開花時期が11月頃から咲く種と4月頃から咲く種があり、11月頃から咲く木瓜は「寒木瓜」と呼ばれています。

花言葉には、先駆者、指導者、平凡、退屈、早熟、熱情、魅惑的な恋、妖精の輝きなどがあります。「先駆者」は織田信長が家紋に木瓜を用いたとする由来するとの説があるようです。

<いけばなと木瓜> 伝書三才の巻に木瓜について次の記載があります。

刺ある草木は調伏の花なれば用いずとはいえども、根本に三光の枝葉を備え挿ける時は苦しからず。三光というは所謂地水火なり。万物この三光を禀けざるものあるべからず。故に刺を去り三光の枝葉をつかい、諸木諸草と同列にして独楽、会席等には用うるとも客席には遠慮すべし。

武士にとって馬が大切な時代、木瓜の実を馬が食べると死んでしまうことから家に植える事が忌まれました。当然、饗応(おもてなし)のいけばなとしては禁止されていたように聞いています。 ただし、会席や独楽*(どくらく)でいける場合は自由に伸びた枝の特徴を活かし、瓶花や盛り花として季節の応合いを添えて挿けます。格花として使用する場合は、三光の枝葉を使います。朽ちた枝があれば、若枝を添えるとまとまり易いものです。枝は曲げやすく、自由に形作る事が出来ますが、桜より梅に似た線を考えましょう。花は次から次へと咲いてきますので、小葉が出てきている場合は水揚げに注意します。素早くいけることと、なるべく水から長くあげないことで水揚げは十分です。また、投げ入れ**の場合は、花の色や応合いを考える楽しみがあります。 いける事を楽しみに出来れば、花は活き活きと季節を表現してくれます。

*:家で一人楽しむ事で、饗応・会席と対称語 **:一般的ないけばな用語。花瓶に自然観をいける場合のいけ方

Photo by colored on Flickr

最新記事

すべて表示

2024年2月のコラム

「今月のコラム」を書き始めて気づけば14年の歳月が過ぎていました。時が過ぎるのは早いものです。長い年月進めてきたという自覚は無いに等しいのですが、昔のコラムを読み返してみると聊か感じるものがあります。継続は力なり、と良く言われますが、14年もの長きにわたって続けることができたのは一重に支えてくれる協力者だけでなく、読者皆様のおかげです。この場を借りて感謝を伝えたいと思います。ありがとうございます。

2024年の新春を迎えて

令和6年能登半島地震において被災された皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げます。 新年早々の心痛む震災や事故があり、震撼する出来事で被災された方達を思うと、新年の祝詞が少し難しい気がいたしますが、新年を迎えるのは、日頃と同じで爽やかな朝を迎える思いです。 例年と同じく、1月2日には書き初めをしました。今年の書き初めは「但尽凡心」、”ただ凡心を尽くすのみ”安岡正篤『

NHK文化センター講座(青山教室)終講のお知らせ

いつも大変お世話になっております。 さて、突然のお知らせになりますが、現在NHK文化センター青山(青山教室)にて開催しております講座につきまして、2024年3月を持って終了することになりました。 なお、2024年3月の講座は東先生のご都合により休講となりますので、現在の青山教室でのお稽古は2024年2月が最後となります。 終了に関するご連絡はNHK文化センターからもご案内がございますので後日ご確認

bottom of page