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  • 未生流東重甫

釣瓶(つるべ)


2016年7 月 今月のコラム <釣瓶(つるべ)>

汗をかき、喉がからからに乾き、冷たい水が恋しい季節になってきました。 今は何でも冷蔵庫で簡単に冷やすことができますが、冷たい井戸水や山の水で冷えた果物を食べた時の美味しさは格別です 今はあまり見ることもなくなった井戸の釣瓶(つるべ)に水を貯め、その中にキュウリやトマト、マックァウリを入れ、井戸に戻して冷やしておきます。しっかり汗をかいて帰ってかぶりつくトマトの冷たさと甘酸っぱさが何よりのご馳走でした。そこに釣瓶の記憶があるわけではないのですが、釣瓶は夏の風物のような気がします。

釣瓶は、日常生活に欠かす事が出来ない水を井戸から汲み上げるための綱などを取り付けた桶などの容器のことで、昭和初期までは所々見ることが出来ましたが、最近では使用している姿はもちろんのこと、井戸そのものも珍しいものとなり、枯れ井戸等、名残として趣豊かに残されているものがある程度でしょうか。釣瓶には丸いものと四角いものがあります。2個1組で綆(つるべなわ)でつなぎ、滑車に掛けて使います。滑車は一般的には木で出来ていますが、まれに鉄で作られた物もあります。 いけばなと釣瓶とは関連づけ難いですが、釣瓶の自然の姿から滑車か綆を敷物として一対の釣瓶を重ねて用いる「置き釣瓶」、自然の景色を写しみる「井筒附きの釣瓶」、釣瓶を模して蒔絵などを施した上品な釣瓶を使う「飾り釣瓶」の3つの使い方について、伝書三才の巻に「釣瓶取り扱いの心得」として説明がありますので、簡単にご紹介します。

<飾り釣瓶> 飾り釣瓶には、蒔絵を施したような、塗り物の上品な釣瓶を用います。未生流では、伝書三才の巻に以下の説明があります。

床へ二つ並べて遣う時をいう。明り口の釣瓶は陽にて角を見せる。柱の方は陰にて平に置く。花は向うの角より挿けて左右へ出す。敷物は花台又は薄板を用う

また、この釣瓶は床に飾ることを許されています。明り口側に置く釣瓶は、角を見せるように置き、陽の姿とします。対して床柱側に置く釣瓶は、平面を見せるように置き、陰の姿とします。なお、釣瓶の釣り手は横一文字に置きます。上座床(右に明り口)の場合、明り口側で陽の姿に置いた釣瓶に客位の竪姿(たてすがた)、床柱側で陰の姿に置いた釣瓶には主位で竪姿もしくは横姿(よこすがた)をいけて一対とします。 なお、花材は陽の釣瓶と陰の釣瓶で異なります。陽の釣瓶は木物、陰の場合は里物か水物を選びます。木物を選ぶ際は、出生の順位を考えて選びます。また、陰の釣瓶では里物どうし、水物どうしもいけます。 床に飾るものですのでいける花材もそれなりに上品なものを選ぶことが大切です。

<置き釣瓶> 伝書三才の巻には置き釣瓶について次の説明があります。

重ねて遣う時をいう。上の釣瓶は陽にて少し角を見せる。下は陰にて平に置く。上の釣瓶は向うの角より花挿ける。下は手前の角に挿ける。敷物は車、又綆を巻きて敷く。この釣瓶は床に置くべからず。そのほかは何れへも用うるなり。

置き釣瓶では、船板や水車などの風化した木や、節目のおもしろい焼き杉など、趣深い板で作られた一対の釣瓶を上下に重ねて使います。敷物が綆の場合は、巻いて使いますが、花と綆の巻き方で陰陽和合を計ります。上の釣瓶の花主位(陰)の場合は、綆は左旋(陽)に巻きます。上の釣瓶の花客位(陽)の場合は、綆は右旋(陰)に巻く。 上の釣瓶に竪姿、下の釣瓶に横姿をいけます。上の花が主位なら下の花は客位、綆は左旋に巻きます。重ね方は、上の花姿が客位なら、下の釣瓶の右から3分の1のところに上の釣瓶の角が来るように重ね、左3分の2の空いたところに横姿をいけます。花材の選び方は二重花器に準じます。

<井筒附き釣瓶> 井筒附き釣瓶について、伝書三才の巻では次の通り説明されています。

上は陽の釣瓶、花は垂物を挿ける。水の見える事悪し。井筒の角に置きたるは陰の釣瓶なり。花は竪姿に挿ける。水は四季に随う。綆に花葉の掛らざるように挿くべし。(以下略)

井筒とは、井戸の枠のことで、板を組んで作ったり、丸太を刳り貫いたようなものを使い自然を模して風流に造られたものです。井筒附き釣瓶の飾り方は、造られ方を鑑みながら自然の景色を風流に映し出すようにします。自然木の柱に滑車を吊り、綆で結び片方の釣瓶を陽の姿に釣ります。また、もう一方の釣瓶は井筒の端に陰の姿で置きます。

いけ方は、上の釣瓶には軽やかに垂物を横姿にいけます。下の釣瓶には竪姿をいけ、いけた花と綆が交差しないように注意します。

以上のとおり、釣瓶はもちろんのこと、井筒、柱、滑車、綆にも風流を必要とします。当然、花材も考えて選ぶ必要があります。 風流、風雅を求めての花器です。花も風流にいけたいものです。

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