2019年11月のコラム 「住空間の花7」
季節の移り変わりが顕著に感じられるのがこの秋です。
1日の中でも変化が著しく、「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」とはよく言った言葉で、本当に早く夜を迎えます。また、朝夕と昼との気温差も大きく着る服に注意が必要になりますが、この温度差こそが美しい紅葉の創造者になります。
黄葉、紅葉と様々な色の競演を身近で感じられるのは、日本に四季があるおかげです。例えば、楓も色を変えその時期の姿を見せてくれますが、これは何本かの木の集まりを紅葉狩りと称して楽しむだけで、本来の木々の姿を誰も見てくれません。
いけばなはその美しさに目をやり、一種で格花をいけたり、他の花材と組み合わせたりして新花でもその美しさを表現します。しかし、そのいけばなも「形ありき」ではないかと感じられます。
いけばなを観る人たちが、形の美しいものや変わったものを好み、珍しい花材との出会いを喜びます。そしていけばな家に対して、植物を使ったデザイナーとして見る人が多いですが、このいけばな家にデザイナーの本質を求められるのであれば、まず花材の生き様を知る事ではないかと思います。つまり、植物自体の美を知り、そして表現することではないかと思います。このためにも「花一輪の美しさ」を見出すことが望まれます。
ここでそもそも花の美しさとは何か?という疑問がわいてきますが、これはその花のもつ自然観です。自然との関わりの中での美しさをより美しく表現します。一枝の紅葉も、手を加えなかったら枝の動きの面白さや一葉一葉の美しさを表現する事は出来ません。
自然観を出すいけ方について少しご説明します。
まず、一枝を手に取ってみましょう。そしてその枝の持っている魅力を探求します。この時、此の一枝を見て最初に何を感じたかが大切ですのでよく覚えておきましょう。
そして感じたことを参考に、枝をより美しく且つより自然に見せる為に手を加え、適当な器を用意します。器自体があまり主張しないものが必要です。
最後に、必要でない枝や葉をすべて落して1枚、1枝の持つ美しさを最大限表現に導きます。形を求める為に横へ流したり、前振りにしたりすることは不要です。これは形を求めることになるので注意が必要です。
形を求めること無く、自然な佇まいの中で美を表現しましょう。
玄関のちょっとした空間や居間の空間にこのようないけばなを置くと安らぎを感じます。この為にもあまり主張しない作品が良いかと思います。存在感がありすぎると安らぎを感じにくくなってしまいます。
理想は、「あると安らぎを覚えるがしかし存在感はない」ことです。いけるにあたり、技巧を凝らし、技術を見せびらかすようなことはしないようにしましょう。
形を求めがちないけばなですが、自然の美に向き合う大切さを今一度感じ、いけばなの基本は1枝1葉の美しさにあることを理解するようにしましょう。