夏の朝の陽射しは清々しく、秋をも感じさせてくれるものですが、今年の夏は連日異常な暑さが続いています。実は、暦の上では七夕が過ぎると秋の訪れです。24節気での季節は初秋、気節では7月節 立秋(8月7日以降)、7月中 処暑(8月23日~9月7日)となります。初秋とは、夏と秋の境目で実際は一番暑い時期ですが、秋の声を聴くとひと時の秋らしさを感じたくなります。朝、路地の垣根や畑の畔に高く立ち昇る枝にポッと咲いた白や紅底の木槿の花には涼やかで清々しい上品な趣があります。今月は万葉集の秋の七草にも挙げられている(別説)木槿(むくげ)を取り上げたいと思います。
≪木槿(むくげ)≫
木槿は被子植物、真正双子葉類、バラ類、アオイ目、アオイ科、フヨウ連、フヨウ属、ムクゲ種に分類される落葉低木です。学名をHibiscus syriacus、別名にはあさがお、かきつはだき、きはち、かがみぐさ、はちす、もくげ、もっき、ゆうかげぐさ、日給之花、日給舜華、時客奔籬、朝生、朝菌、朝革、無窮、花木給客、舜英、愛子花、愛老、暮落及重梅花、蕣、蕣英、爵英、麗木等があります。
あさがほは朝の貌花(かほばな)です。貌花は美しい容姿のことで、朝方に美しく咲く花はあさがほと呼ばれます。ただし、万葉集のあさがほは江戸期以降に栽培されたラッパ型の花を付けるヒルガオ科のアサガオ(小学校などでよく栽培されている種です)ではありません。
朝顔は朝露負ひて咲くといへど 夕影にこそさきまさりけれ(巻102104 作者不詳)
また、大和物語には木槿の垣根にかけて、逢瀬の夜の明けた朝の恋人の姿の素晴らしさをほめた記述があります。
垣ほなる君があさがほ見てしがなかへりて後は物や思ふと(大和物語 第89段)
「槿花一日の栄」(白居易)の語から木槿は一日花のように思われがちですが2~3日の間咲き続ける種や、朝咲、夕刻に萎み、また次の朝に咲く種もあります。
原産地は定かではなく、耐寒性があり、温帯地域でも生育が可能なことから、世界中で栽培されよく知られています。特に中国では古くから観賞されていた花木で、朝鮮半島にも古くに中国から渡って、多く栽培され今日では韓国の国花になっています。
高さは3mに達し、枝は灰白色で新枝には星状毛がはえます。花は夏に咲き、鐘形で直径5~6cmになります。薄紫色の種類が通常ですが、白色やピンク色、白の底部が紅色の物もあります。八重咲の品種も多いです。
<いけばなと木槿>
木槿は思い込みで忌み嫌われてきた歴史があります。中国文化が日本の文化を摂関していた頃、先述の白居易の詞を間違えて訳してしまい、1日で枯れてしまうことから栄華が続かないものの象徴として祝亊や饗応に用いてはいけない調伏の花とされてきました。しかし時代を経て江戸期には、抛げ入れ(なげいれ)や立花にも使われるようになり、千宗旦が好んだこともあって茶花としても重宝されるようになりました。
一輪挿しや抛げ入れに枝ぶりの優しいものを選んで挿けるのも良いです。枝の伸びやかさもあり、格花に遣えるものは少ないですが、揉めの効く枝で、応合いや寄せ挿けには挿けて愉しいかもしれない。古い伝書には忌み嫌う節もありますが、もはや一日花でも無いすがしい花を用いてみたいものです。
水揚げは切り口をアルコールに浸すと良くなります。生育の速い木ですので花を育ててみるのも一興です。