2017年9月の花 萩(はぎ)
萩(はぎ)と聞けば秋の七草がすぐに思い浮かびます。これほど万葉集の中で一般人に溶け込んでいる歌は他には無いと思います。代表的なものに“萩の花尾花葛花瞿麦の花 女郎花また藤袴朝貌の花”(巻八;一五三八 山上憶良)がありますが、この他にも山部赤人や大伴家持など多くの歌人で141首詠まれており、万葉の花の中では一番多く詠まれているのではないでしょうか。
また、蒔絵や屏風絵、衣装の絵柄としても多く取り上げられてきました。「天皇陛下と山野草」という著書(昭和62年発行)には、愛おしそうにハギを観察されているお写真がありました。
華やかさはないこの花が古来より愛されているのはなぜでしょうか。
萩は、被子植物、真正双子葉類、バラ類、マメ類、マメ目、マメ科、ヌスビトハギ連、マメ属に分類され、英名はBush clover またはJapanese clover、別名にはハギ(芽子)、シカナキグサ、やまはぎ、又牙子、木萩、胡枝子、鹿鳴草、天竺草、観音菊、玉見草、庭見草、初見草、古枝草があります。
実は、日本には名前に「ハギ」のついたマメ科植物は50種以上ありますが、ハギという種はなく、ハギ属植物の総称として用いられています。
この名前は、毎年春に古株から芽を出す様子を表した「生芽;はえぎ」に由来したらしい。
漢字では、秋を代表する草として萩と書きますが、これは日本で当てたいわゆる国訓で、万葉集では「波疑」「芽木」などが用いられています。ちなみに、中国名の胡枝子、萩はヨモギの類を指します。
ハギ属は、約40種がアジアと北アメリカの暖温帯域を中心に分布する低木あるいは多年生草本です。葉は3小葉、花序は主に腋生し、2花ずつ総状につきます。5枚の紅紫色から白色又は黄白色の花弁をつけ、雄しべは10本のうち9本が花糸で合着して体雄しべとなります。雌しべの基部を取り巻くように密線が発達し、1個の胚珠、つまり1個の種子ができます。
また、ハギ属は大きく2つのグループに分けられます。閉鎖花を作るメドハギの仲間と、閉鎖花を持たないヤマハギの仲間で、それぞれ亜属とされます。ヤマハギ亜属は東アジアのみに分布しますが、メドハギ亜属はアジアと北アメリカに広く分布しています。
ヤマハギ亜属は約13種あり、日本には約10種が自生しています。一般的に観賞用として栽培されているのはヤマハギ亜属の種類で、古来「ハギ」として親しまれてきたのはこのグループです。仙台市はハギを“市の花”としています。
一方で、閉鎖花を付けるメドハギ亜属は約26種類あり、アジアに15種、北アメリカに11種が分布していますが、両方の地域に分布する種はありません。このうち5種が日本に分布していますがいずれも日本固有種ではなく、アジアの他の地域にも分布しています。閉鎖花では、花が蕾ほどの大きさの段階で雄しべ雌しべが成熟し、同花受精をします。このため、蕾からいきなり若い果実が現れます。確実に種子が出来、子孫が残せる閉鎖花の方がヤマハギ亜属より進化していると考えられます。
<いけばなと萩>
伝書体用相応の巻の「数挿け物五種の心得」(梢楳・桔梗・蓍萩・野辛子・角木賊)で説明があるので参考にすると良いでしょう。
萩は、横になびく姿がしおらしい花で掛け花器などで横姿にいける方が似合う花材ですが、立ち昇る萩もありますので縦横の姿を挿けるのも良いです。
秋の風情を求めて七草など取り合わせ籠に自然の趣を表現するのも一興です。玉川ですので水の美しさを表現し、広口に黒白の砂利と蛇籠などで川の景色を描き、萩を川向う川手前に配し、川の流れと萩の動きが溶け合うようにいけます。
なお、六玉川のうちのひとつ、「萩の玉川」と呼ばれる近江の国野路の玉川の景色を想像しましょう。現在の滋賀県草津市野路町には碑だけが残っていますが、千載和歌集には源俊頼が次の歌を詠んでいます。
“明日もこむ 野路の玉川萩こえて 色なる浪に月やどりけり”
萩は水揚げが難しい花材ですので、切り口を炭化させ深水で養います。朝露を含んでいるうちに切り、葉に風を当てないことがポイントです。竹と同じように切る所から注意して、根本は勿論枝先に至るまで濡れたままで持ち運ぶようにします。水揚げ剤は色々ありますが、水から離さない事と風に当てない事が大切です。当然ですが、いける時は手早くいけてください。
photo by TANAKA Juuyoh on Flickr