2017年6月 今月のコラム <三巻筒 左旋右旋>
未生流の伝書「規矩の巻」には、花器やお花道具等を造り方について細やかに説明がありますが、中でも竹花器は未生流にとって大切な器の1つです。
宝器とされている七種竹花器の三種の変化に始まり、三重・五重・船等いく種もの竹花器だけでなく、寄せ筒の基本ともいうべき三巻筒の説明もあります。
三巻筒は、「是より曲物之圖 未生斎康甫法眼好」の最初に説明がありますが、これはいわゆる二代家元未生斎康甫の創意による器です。
器の意味については、太極、両儀、三才和合とこれまで数ヶ月にわたって説明をしましたが、大変意味深いものとなっています。
花器を造る上での素材になる竹の多くは、真竹、孟宗竹(ゴマ竹、図面竹、亀甲竹も孟宗竹の一種)です。
私が住んでいる長岡京市(京都南西部)は筍の名産地で、近くに京都洛西竹林公園があり、中には資料館など竹を知る上で大切な空間があります。種類の多い竹の中で和楽器に用いるような珍しい竹もありますが、生け花に用いる竹としてはあまり多くの種類はありません。もちろん、今日の生活空間の中で竹はまだまだ活躍してはいますが、花展の最中に突然「パーン!」と大きな音を立てて割れる竹が多いようで残念ながら竹が十分活躍できる環境は少なくなってきています。3年物、5年物と、製作者は色々学びながら今の時代の器に挑戦してくれていますが、乾燥や換気の風等、割れるための条件がそろっている上、竹の切り口を濡らさない様に、また木を強く張らない様にと様々な工夫を凝らしながら用いても割れる事が多くあります。このためなのでしょうか、昔に比べると少しばかり竹の器が少なくなったような印象を受けます。
竹花器は、伝統の器であり、日本独自のいけばなと竹の出会いは多くの美を生んできました。これからもそうであってほしく思います。
<三巻筒 左旋右旋>
宇宙混沌の意として「太極」、陰陽所謂天地が別れた意として「両儀」、天地陰陽の和合により人が生じたの意として「三才和合」。そして天地運行の姿の意として「左旋右旋」と三巻筒には五種の筒の置き方があります。
筒の置き方は、奥から少しずらしながら1の筒、2の筒、3の筒と順に置きますので、少し奥行を感じます。また、左旋右旋の置き方は、相対するもので、2の筒を1の筒より右手前に置くと左旋、左手前に置くと右旋となります。これは、天地運航の姿を意味し、天は左旋して休むことなく日の恵みを与えてくれる陽の姿、地は右旋して天の恵みをはぐくむその姿を陰としています。
これは陰陽が和合して人をはじめ、ありとあらゆるものを生み出すところに由来しています。
表現することは、三才和合ほど華麗にいけるでもなく、太極や両儀のような重々しいものでもなく、上品な花で閑静にいけたいものです。
先哲の言葉を借りていうなら、太極は神秘森厳、両儀は荘重荘厳、三才和合は華麗、そして左旋右旋は変化と調和を意味した花をいけたいものです。
いけ方は花材の取り合わせにもよりますが、一般的ないけ方として1の筒に大きく横姿、2の筒には1の筒の反対側に大きく竪姿、3の筒に1の筒と同じ側に半竪または半横姿をいけます。この場合、花材は山里水の心で選べば間違いありませんし、山山山、山山里、山山水、山里里、山里水などが考えられます。
このほか、三重いけの応用で1の筒に大きめの横姿、2の筒に1の筒と同じ方向へ小さく半竪か半横姿、3の筒に1の筒の反対に大きく竪姿をいけます。この場合は、2の筒の花材の順位に注意が必要で、出生が3の筒の花材に比べ小さいものも好ましくありません。上から山山山、山山里、山里里、などが考えられます。
派手にならず、品の良い季節感あふれる美しい姿にしたいものです。花器との釣り合いを考えて花材選びが出来れば後は美しくいけるだけです。また、季節やロケーションを考えると同時に、3巻筒の置き方が意味するところを踏まえていけ花に取り組んでいただければありがたく思います。
「いける姿が美しくても、それの意味するところが表現できていないといけ花とは言えない」と頭の片隅に留め置きながら日々精進していきたいものです。