2016年9月 今月の花 <木犀(もくせい)>
9月に入ると朝夕が少し涼しさを運んでくれるようになり、「今年の夏は今までで一番暑かったね!」と振り返ることもチラホラ出てくるのではないでしょうか。もっとも、最近の夏は残暑が厳しいことも多く、9月でもまだ寝苦しい夜が続いたりもしているのですが。 そして、灼熱の夏日が過ぎようとする頃、毎年同じような笑顔で我々を楽しませてくれる花木があります。中でも生活に密着した花木や草花は、いつの間にか傍に来て秋風を運んでくれますが、今月はその中から芳香の強い木犀(もくせい)と金木犀(きんもくせい)をご紹介しましょう。
木犀は、被子植物、真正双子葉類、キク類、シソ目、モクセイ科、オリーブ連、モクセイ属に分類される常緑小高木です。広義では、学名のOsmanthus fragransは、変種である金木犀(キンモクセイ;英名はfragrant orange-colored olive)の総称でありますが、単に「木犀」と言う場合は、銀木犀(ギンモクセイ)を指すことが多いです。なお、中国名は、木犀は桂花、銀木犀は銀桂、金木犀は丹桂、ウスギモクセイは金桂です。また、属名のOsmanthusは、ギリシャ語で「香り高い花」という意味です。
モクセイ科は、連翹(れんぎょう)、木犀やライラックなどの庭木や、アオダモやヤチダモなど材木になる高木、オリーブなどの果樹、ジャスミンなど香料に用いられる低木を含む木本性の科で、つる性のものもあります。世界の熱帯から温帯にかけて、約30属600種がみられ、日本では7属26種ほどが分布します。 モクセイ属は、金木犀や柊などのように秋から冬にかけて香り高い小さな花を葉腋に咲かせます、常緑の高木あるいは低木で、15種ほどがアジア、ハワイ諸島、北アメリカ島南部に分布します。
日本には、暖温帯から亜熱帯にかけて5種が分布し、さらに台湾に分布するナンゴクモクセイが八重島列島の西表島に生育するともいわれています。金木犀は、中国から入ってきたとされていましたが、日本でウスギモクセイから見いだされ、栽培されたとも考えられています。
秋には強い香りをふりまくこの花も寿命は短く、1~2週間で散ってしまいます。日本のトイレ環境があまり良くなかった時代、この強い香りを芳香剤として金木犀の香りを利用したことから、今でもトイレとを彷彿とされる人もいるようです。 中国では、よく目にする桂花茶や桂花陳酒に使われているほか、砂糖漬けのお菓子や料理にも使われています。桂花とはいえ、金木犀(丹桂)を主に使っているようで、銀木犀より色もよく、香りもふくよかなのかも知れません。とはいえ、実際その香りには大差はないのではないかと思います。 育っている環境が造るものかもしれませんが、自宅の花の香りも何気なくにおいを感じているだけではありますが違いを感じたことはありません。
<いけばなと金木犀>
金木犀を伝承の花に遣った作例を思い出しませんが、花がよく散り、また、匂いも強いのであまり部屋に飾ることは無いように思います。玄関あたりに忍ばせるように飾っておくのも一興かもしれません。 前述のとおり、散りやすい花ですので蕾がちな枝を一輪挿しにする、もしくは硬い葉を利用してアレンジの土台にして少しの薫を愉しむようにすれば良いのではないでしょうか。
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