7月にもなると季節はいよいよ真夏の様相に包まれます。24節気では七夕でもある7日が小暑、22日が大暑となります。また、18日から8月6日までが土用、今年は7月30日が土用の丑の日で、この日に鰻、梅干し、瓜など、ウのつくものを食して夏の暑さに負けないようにします。 まさに夏真っ盛り7月ではありますが、秋の花とされている萩(はぎ)や桔梗(ききょう)など多くの花が咲き始めます。ただ、旧暦の七夕には必ず出そろう秋草も、新暦の7月7日の七夕には揃わないこともあります。また、山上憶良の万葉集の歌には「萩の花 尾花葛花 瞿麦の花 女郎花また藤袴 朝貌の花」と詠まれていますが、この歌に出てくる花とは異なり、秋の七草を「萩、尾花、桔梗、刈萱、女郎花、葛、藤袴、秋の七草」と記憶されている方も多いのではないかと思います。なお、未生流では、七夕の花として桔梗、刈萱(かるかや)、女郎花(おみなえし)をいけるとありますが、今月は秋の七草から万葉集の中でも141首と一番多く詠まれている萩を取り上げてみます。
萩は、被子植物、真正双子葉類、マメ類、マメ科、ヌスビトハギ連、ハギ属(Lespedeza)に分類される落葉性低木です。英名をBush cloverまたはJapanese clover、別名には生芽(はえぎ)、波疑、芽子、庭見草、野守草、初見草、鹿鳴草、玉見草、古枝草、芽胡子などがあります。なお、萩の漢字は、日本であてたいわゆる国訓(こっくん;漢字が本来表す中国の意味ではなく日本独自の訓をあてるもの)で、本来、萩とはヨモギ類を意味しますが、前述のとおり萩はマメ類の植物です。また、日本には、名前に「ハギ」がついたマメ科植物は50種以上あります。ところが「ハギ」という種はなく、ハギ属植物の総称として使われています。
詩歌に詠まれるだけでなく、絵巻や屏風絵にも描かれていることが多く、蒔絵や衣装の絵柄としても取り上げられてきました。古くから牧草としても用いられており、秋に刈り取ったものを干して家畜の飼料にします。庭園や公園に植えられていることも多く、荒れ地でもよく育つため、砂防用や植被植物として利用されることもあります。
ハギ類は、閉鎖花を作るメドハギの仲間と閉鎖花を作らないヤマハギの仲間の大きく2つのグループに分けられ、、それぞれ亜属とされます。ヤマハギ亜属は東南アジアのみに分布しますが、メドハギ属はアメリカと北アメリカに広く分布しています。 ヤマハギは、山野で普通に見られるハギです。茎が直立し、花弁は紅紫色、翼片が竜骨弁とほぼ同じ長さかわずかに短いものです。北海道から九州と朝鮮半島、中国北部、シベリア南東部に分布しています。ヤマハギ亜属は、約13種があり、日本にはこのうち約10種が自生しています。一般に観賞用として栽培されているのはヤマハギ亜属の種で、古来「ハギ」として親しまれてきたのはこのグループです。 この他にもキハギやチョウセンハギ、メドハギ、シラハギ等があります。
<いけばなと萩> 上述のとおり、ヤマハギ(以下、萩)とメドハギとは異なり、いけばなにおいても、メドハギは直立して生えるため、伝書体用相応の巻の中の「数挿け物五種」に説明があります。一方で、萩は伝書三才の巻の「草木種々取り合わせ挿けの心得」にシラハギが出てきます。垂れるような枝のハギは横姿に似合う花材で、重ね切りや寄せ筒の上口に使いやすく、色の順位「白紫黄紅赤」を考えてシラハギが選ばれているようです。 なお、伝書四方之薫の「横姿モノナリ」の説明のとおり、竪姿にいけることはあまり好ましくありません。また、秋の七草の代表でもありますので、季節感や枝振り、花の色など風情を醸し出すための花材として適しています。一種を掛け花器でいけたり、二重切りの上口にいけたりします。また、秋の紅葉を楽しむことも可能です。
水あげは、切り口を炭化するまで焼いた後、逆水をかけて深水で養います。深水の露のあるうちに切り、産水を吸わせて風に当てないよう紙で巻いて運びます。なるべく乾燥させないように濡らした紙で巻くと良いです。他の方法として、切り口に希塩酸を浸し、湯揚げする、またはメンソール、バンショウチンキ、焼きミョウバンなどを試してみても良いかもしれません。 ポイントは養いをし、切り口を水から出さず、逆水(さかみず)をして速やかにいけることです。
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