今年もいよいよ師走を迎える時期になりました。1月から未生流三才の巻の中から、婚礼の花の心得に始まり、追善の花の心得、祝事の花の心得や四季祝日の花の心得等、数々紹介してきましたが、今年最後の今月は四季祝日の花の心得から「事始」を取り上げてみたいと思います。陰陽消長ではありませんが、終わりがあれば始まりがあるものです。
伝書三才の巻に、事始めについて以下の記載があります。
事始めは、古昔(いにしえ)天地穏やかにして、万の憂いなき日なれば、この日正月のまつり初め給うなり。故に今の世に至りても、臘月(ろうづき)13日を事始めとて、掃除などを調え、歳徳神を迎える礼儀を成すなり。(以下略)
昔はこの日に門松やお雑煮を炊くための薪を山に取りに行く習慣があったようです。また、江戸時代まで用いられていました宣明暦では、12月13日の27宿は必ず「鬼」になる日であり、婚礼以外は全て吉、正月の年神様を迎えるのに良い日としてこの日が選ばれたようです。商家では家中の埃を祓い、年神様を迎える準備をします。
京都の事始めは賑やかで、カメラを抱えて先斗町や花見小路を忙しく行き交う姿を目にします。そして芸の世界では新年を迎える行事として今も引き継がれています。舞妓がお師匠さんやお世話になったお茶屋さんに年始の御挨拶に回る日であり、「おめでとうさんどす。今年もよろしゅうおたのもうします。」と言う声が聞こえると、しばし年の瀬の慌ただしさから抜けられるような気がします。
ちなみに、京舞の井上流家元では、多くのお弟子さん達からお鏡さんが届き飾られます。挨拶に来た舞妓には「おきばりやす」と舞扇が渡され、新しい一年が始まります。
<事始といけばな> 伝書三才の巻では、事始の花は梅に歯朶で、歯朶は冬至以降に新芽を生ずるもので、この葉を若葉と唱え正月の注連縄の飾り付け・鏡餅の上にも飾られる様になった、と説明があります。 ここでの歯朶は、うらじろの事を意味し、白梅に歯朶を応合うようにいけます。なお、歯朶の詳細は12月の花のコラムを参照ください。