今年は「伝書三才の巻」から項目を選んでお話をしています。未生流伝書三才の巻とは、いけばなを始めるに当たり知っておくべきこと、例えば「いけばなの成り立ち」や「いけばなの大意」そして教えるに当たり必要なことなどの説明があります。 「祝事の花の心得」には生活に密着している行事の中でも、これだけは知っておきたい基本的なことが書いてあります。 花をいける時の注意としての項目には、新宅移徙の花の心得や追善の花の心得、婚礼の花の挿け方の心得、祝事の花七箇条、四季祝い日の花十一箇条、五節句の花六箇条等々広きにわたって説明があり、これらのうちの一部はこれまでのコラムでもご紹介しました。今月は、祝事の花の心得七箇条から誕生の花をお話します。
古来、生後1年目の誕生日は盛大に行われましたが、2年目からは数え年で数える事もあり誕生日より年の初めを皆で祝ったようです。なお、髪置き(かみおき:幼児が初めて神を伸ばし始める時の儀式)や袴着(はかまぎ:幼児に初めて袴をはかせる儀式)といった節目の行事は誕生日ではなく、日を改めて行われました。
誕生日の祝いの花として、
高位の御方なれば松竹梅を挿けます。
平人は竹に五葉の松、根元に草花実物応合いて挿けるべし
と説明があります。花を飾る習慣は現在もありますが、好きな花や美しい花を花瓶に飾るだけで花に対してあまり制約はなく、祝いを兼ねたパーティーを明るく盛り上げる為の道具に過ぎません。 生れ来る大切な子ども、特に家督制度が存在していた時代の家の後継ぎにもなる息子の誕生日は盛大で、花に対しても求められることが多くあり、「一切垂物は芽出度き席に用いず、名の悪しき物、弱き物を忌む。」とあります。 「椿を応合うときは霜囲い、挟み葉を備うべし」とありますが、これは子を思う心で花の蕾を厳しい寒さや風雪から守る心を表したものです。実がつく物はいずれもよく、これは結実をもって次の生命の兆し、つまり子孫繁栄を意味します。
松は常緑、梅は魁、竹は節度を保ち健やかに伸びるという意味で、白玉椿は八千代の玉椿として純白で芽出度い花として使います。この他にも菊、芍薬、牡丹、万年青(おもと)、太藺(ふとい)など勢い強く芽出度い花を使い、白い花を選びます。
子に対する親の気持ちはいつの時代でも変わるものではありませんが、健やかに成長する事を願い飾り花一つにも気を使うゆとりが欲しいものです。