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未生流東重甫

5月の花:太藺(フトイ)


春の華やかな花の競演も少し落ち着き、新緑が芽にまぶしく清々しい季節の到来です。 この季節、近年では夏の盛りの様な天気の日も多いようですが、まだ朝夕には涼しい風を感じます。 山の新緑、里の花、そして水辺には杜若(かきつばた)や河骨(こうほね)、そして群がる緑の線の重なりが煙るように見える太藺(フトイ)と自然の景色の移り変わる様は見逃すことは出来ません。美しい杜若や睡蓮等に目を奪われ見逃されがちですが、それでも勢いよく伸びるところから、祝いの花にも記されています太藺を今月の花に取り上げます。

太藺は、被子植物門単子葉植物網カヤツリグサ目カヤツリソウ科ホタルイ属フトイ種に分類される多年草で、高さは2m以上にもなります。太藺は、地下茎を横に伸ばし、葉茎の様に長く伸びますが、これは花茎であり、この下の方に変化して皮がついているように見えるのが葉となります。花は、花茎の先端に花苞が上を向いて付き、その中から小枝を出して先端に小さな穂を付けます。 なお、カヤツリソウ科によく似た種でイグサ科があります。太藺の名は文字通り、太い藺草(いぐさ)の意味ですが、先述のとおり太藺はイグサ科ではありません。また、藺草との違いは難しく、見た目で中々判断できませんが、花で見分けることができます。藺草は小さい花弁を持った花を咲かせますが、太藺は穂状の花を付けます。

原産地は日本、アジア、ヨーロッパであり、都久毛つくも、太藺おおい、オオイグサ等の別名があり、花言葉は 品位、肥大、無分別です。 用途として一般的に言われている藺草は畳や御座、帽子のほか、燈芯草の別名を持つように燈芯や蝋燭の芯などにも用いられています。 太藺の一種でチチカカ湖に自生する太藺の一種、トトラも藺草と似たような用途で用いられていることが一般的には知られています。ウル族はトトラを刈り取って乾燥させ、その束を水面上に大量に積み重ねることによって浮島を作り、トトラで葺いた家をその上に建てて、水上の暮らしを営んでいます。家の傍らに畑をもつ際にはトトラの根がその肥料にもなります。漁に用いる舟や移動用のボートもトトラから作り、食材、お茶、燃料、薬、身装品(帽子など)など、生活のあらゆる場面でトトラが用いられており、湖上で暮らすウル族にとってトトラが生活の全てを賄う存在になっています。

<いけばなと太藺> 太藺は万葉集にも詠まれている日本古来の植物で、生活品や観賞用にも使われていました。いけばなでも夏の水辺の景色には欠く事の出来ない花材であり、数多く挿けられた作品図も多く残っています。 伝書三才の巻の「草木種々取り合わせ挿けの心得」の取り合わせの中で、体に太藺、用に杜若、留に河骨か猿猴草(えんこうそう)が挙げられています。加えて、体用相応の巻の「藺物挿け方の心得」の太藺の説明では次のように記されています。

竪縞あり、横斑あり。上品なり。杜若を用に遣い、藺の体、河骨を留に遣う挿け方面白し。

背の高い線物の太藺と細長い面の優しい葉を持つ杜若、そして幅広く光沢のある葉の河骨の取り合わせが如何にも自然の美しさを表現してくれそうな取り合わせになっています。 もちろん、瑞々しく伸びやかな太藺を一種でいけても良いものです。縦縞の太藺も涼やかで他の花材と合わせても清しい水辺を表現できます。横斑は新花では、白い斑が瑞々しく水滴の様に感じる事もあります。

夏の花を涼しく挿けるのも「おもてなし」の大切な役割です。観賞頂いた方には、立派な花や技巧的な花より一息つける花がなによりのご馳走です。

photo from http://soyokaze-jp.cocolog-nifty.com/

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