11月は、いよいよ冬を迎える季節です。24節気の小雪と立冬にもあるように、少しの間秋の実りに舌鼓を打っているとすぐそこに冬が出番を待っています。また、秋のなごりを惜しむかのように紅葉で真っ赤に燃える山々に哀愁を感じる季節でもあります。そんな時節の中で出番を待っている草木も多くあり、その中から今月は寒椿(かんつばき)をご紹介します。 寒椿と聞けば、宮尾登美子の小説やその映画、森晶子が歌った寒椿などが思い浮かぶ方もいらっしゃるかと思います。実は寒椿とは名ばかりで、後述のとおりどちらかといえば山茶花に近い品種であり、幹の質感は山茶花や前回お話しました茶ノ木と似ています。ちなみにこの時期に咲く花の名前の頭に「寒」を付け、咲く時期で分けている事が多くあります。寒牡丹、寒桜、寒緋桜、寒蘭、寒岩蕗などはその代表といえます。 寒椿は、椿(つばき)と山茶花(さざんか)の交雑種とされる被子植物門双子葉植物網ツバキ目ツバキ科ツバキ属の常緑中低木です。山茶花と類似していてほとんど見分けがつきませんが、寒椿は花びらの枚数が14枚以上と多いのに対してサザンカはほとんどの品種が5枚か6枚です。また、寒椿は山茶花に比べて花弁のしわが少ないのも特徴です。 冬の代表的な花木であり、11月から3月に5~8cmの花が咲く八重咲きの薄紅花が多くみられますが、他に赤や白、桃色の一重や八重咲きもあります。なお、寒椿は椿と異なり、花びらは1枚ずつ散ります。また、樹形は立性のものと横張のものとがあり、横張のものは背も低く生垣や庭木など観賞用に用いられています。 生垣の山茶花がよく見れば寒椿であったりしますね。今年の冬は近くの生垣の花を観察してみてはいかがでしょうか。とはいえ、最近は生垣のある住宅は少なくなり、京都の桂離宮の生垣くらいになってしまいましたが。 <いけばなと寒椿> 寒椿のほとんどの樹形が横張りで、枝が真横に出る様に成長します。また、寒椿をいけばな、特に格花(かくばな:伝統の花)に用いることはほとんどありませんが、新花(しんか:○○の花)にはまれに用いられます。なお、山茶花と同じ立性のものは格花に用いる場合があります。 いける要領は「山茶花」や「茶ノ木」で説明しましたのでここでは割愛しますが、特に山茶花の鎌倉絞りは、花の品も良くいけても良いとされています。 photo by ashitaka on Flickr