朝晩急に涼しくなった途端、日中も爽やかな秋晴れが続いています。最近は、温暖化の影響か紅葉の時期が年々遅くなっている印象を受けますが、徐々に色付いていく紅葉がなぜか物悲しく感じられるのは私だけではないかと思います。見た目派手に変化していく紅葉、色とりどりに咲く秋草や菊と世間では美しい花や葉が沢山ある中で、静かに花を付ける茶の木(ちゃのき)があります。今月は、その茶の木をご紹介します。
多くの木の中で「お」を付けて呼ぶ植物は他にありません。なぜか稽古の時でも「お茶」「お茶の木」と言ってしまいます。
茶の木は、ツバキ目ツバキ科ツバキ属チャノキ種の常緑低木ですが、インドやスリランカなどで栽培される高木のもの(アッサムチャ)もあります。学名はCamellia sinensis、英名はTea plantであり、原産地は中国南東部とされていますが、確かなことはわかっていません。よく似た花で山茶花(さざんか)もツバキ属サザンカ種の常緑低木です。
茶の木は2種に分けられ、大木のアッサムミカ(アッサムチャ)と低木のシネンシス(日本の茶の木他)があります。中国から南方あるいは東方に分布を広げていく過程で2種に分かれ、10m以上も有る高木に変化したのがアッサム種で、主に紅茶の原料となります。シネンシス(中国型))は緑茶やウーロン茶の原料になります。この他に、紅花茶(べにばなちゃ)があります。この紅色には、発がん物質を持っている酸化作用を抑制する抗酸化力があると注目されています。
発酵させて、赤色の色素を作らせたのが紅茶、発酵させないようにして緑色を保たせ製造したものが緑茶、両者の中間である半発酵させたものの代表がウーロン茶となります。カフェイン、テアニン、タンニン等の特殊成分を含み、中でもカフェインを含んでいる植物は珍しく、茶の木の他にコーヒーの木、カカオの木、マテくらいしかありません。
花は白色で蕊は黄色の2-3cmの大きさで、花弁は抱え込むように10月~12月ごろに咲きます。なお、日本の地図記号で茶畑を表す記号はこの果実を図案化したものです。
前年の花が実になった後、落ちずに残るので種子と花を一本の木にいける事が出来ます。
種子は花と同じ大きさ位で、カメリア油(カメリアは椿の英名です)を搾るのに使われます。カメリア油はオレイン酸を多く含む油であり、ベニバナ油やオリーブオイル、なたね油等もオレイン酸を多く含む油です。
台北の猫空を散策している時に、食ツバキ油の雉のから揚げを頂きました。この時のツバキ油は、パッケージから茶の実の油と後で分かりましたが、たくさん食べた割には胸焼けをしませんでした。
<いけばなと茶の木>
自然に成長した茶の木は、枝の分岐も多く、葉も良く茂り、花と実を一緒に付けています。材質は椿と同様、縦の繊維があまり無く、曲げる時に折れやすい花材の1つですので注意しましょう。
不要な枝を落とし、風流な枝の動きを利用していけて下さい。
茶の木は、自然では葉を多く付けていますが曲のあるおもしろい動きの木であれば、葉をある程度落とし、主になる木の動きを見せる方が茶の木を表現しやすいようかと思います。
どの花材をいける時も、その花材をいかす事が望まれます。形よくいけるのは当然として、花姿の中に「らしさ」を表現しなくてはなりません。もちろん、この「らしさ」とは茶の木らしさは当たり前として、季節感や情景なども含めて考えたものであり、特に観て下さる方がどのように感じてくれるかということを念頭に置くことも重要です。
花への思いやりも大切ですが、おもてなしの心も大切です。安らげる花を心がけていけましょう。
photo by 草花写真館