秋の七草の中から8月に女郎花、9月は桔梗とお話ししてきましたが、今月も続いて秋の七草の中から藤袴(ふじばかま)を紹介したいと思います。 藤袴は、キク科ヒヨドリバナ属に属する多年草で、奈良時代に香料として渡来したものが野生化したものと考えられ、古くから香料・薬草に使われていました。花を乾燥させてお茶や匂い袋などや(全体に桜餅のような香りがします)、薬草として利尿剤や入浴剤として神経痛、肩こり、皮膚のかゆみ等に使われていたようです。 別名には、香草(かおりぐさ)、蘭草(らんそう)、 香水蘭(こうすいらん)、王者香などがあり、花言葉は思い出、ためらい、延期、遅れ、あの言葉を思い出すがあります。 藤袴と形がよく似ているヒヨドリ草がありますが、見分け方は葉の違いです。藤袴の葉は3つに分かれているのに対して、ヒヨドリ草は1枚葉です。また、花の形は似ていますが、藤袴の花には小枝が多くあるのに、ヒヨドリ草はあまり茎が分岐していません。 なお、藤袴は準絶滅危惧種(レッドリスト)とされており、京都でも栽培を呼びかけています。これは人が根こそぎ乱獲した結果でもあります。 野にあり、美しく心安らぐ花は野で楽しみたいものです。ちなみに、いけばなで使っている藤袴は本種との雑種か同属他種でしょう。 万葉集には山上憶良の秋の七草の歌に出てくるだけですが、万葉集の「藤袴」はよく知られています。また、古今和歌集では紀貫之、藤原敏行、素性法師が香りを題材に歌っています。そして、みなさんよくご存知の源氏物語にも藤袴が登場します。夕霧が玉蔓に歌を詠みながら差し出すシーンが玉蔓十帖にありますので一度読んでみてください。 <いけばなと藤袴> 未生流の伝書では、花や葉の特徴から分類されている種類として、藺物、数いけ物、軸付葉物、葉物、長葉物、段取り物があり、藤袴は段取り物に該当します。 「段取り挿け方の心得」として、羽衣草、小車草、弁慶草、下野、小菊、瞿麦、藤袴、男郎花、女郎花の9種あげられ、その説明がされています。 段取りいけの花は、小さな花を密集させ一塊の花を咲かせるところから、1輪2輪とは数えず、この一塊を1輪としてとらえ、さらに1段と表現します。先月お話しました女郎花も同様の扱いです。 いけばなには花材の使い方として一種いけ、寄せいけ、株分け、混ぜいけがあります。 一種いけ:花材1種で格花をいける 寄せいけ:体・用・留の三才の格先に2種以上の花材をつかう 株分け:谷間分け、株分け、魚道分け、水陸分けと格花を2株以上いける。(谷間分けは木物、株分けは草物、魚道分けは水物、水陸分けは陸物と水物を同じ器に分けていける) 混ぜいけ;伝書で説明されている中では特殊なもので、季節感のない葉蘭には季節の草花を葉の間に配すようこと。 藤袴のいけ方は、上述の1種いけを主に、寄せいけや、秋の景色を表現するように秋草ばかりを株を分けていけることもあります。 秋を楽しむのはやはり五感で楽しみたい。同じ風でも楽しみ方で色々な秋を感じる事が出来ます。 いけばなでも風を感じ、陽射しを感じ、景色を感じて秋をいけたいものです。