今年は去年と比べて3月上旬から暖かい日が続いたこともあり、桜の開花時期が大幅に早いようです。すでに開花時期を過ぎた種類も多くありますが、新年度の最初の月に桜を連想する行事も数多くあることもあり、は桜をイメージするのではないでしょうか。 そこで、今月は桜についてお話ししようと思います。 桜の語源には諸説ありますが、「春、里にやってくる稲(サ)の神が宿る座(クラ)である)とされる説があり、歴史は古く、数百万年前とも言われています。 桜は、バラ科サクラ亜科サクラ属の落葉広葉樹で雄雌同株です。サクラ属には約400種、交配種を加えると600種以上にもなると言われています。 サクラ節での分類には、ヤマザクラ群、エドヒガン群、マメザクラ群、チョウジザクラ群、カンヒザクラ群、サトザクラ群、ミザクラ節 ミヤマザクラ節、ロボペタルム節等があります。 花びらによる分類では、一重(ひとえ)は5枚、八重(やえ)は10枚以上、菊咲きは細長く数が多いもの、等があります。 開花時期も種類によって異なります。沖縄の緋寒桜が開花第一号、その後寒桜、山桜、染井吉野(ソメイヨシノ。一般的に桜といえばこれですね!)、八重桜と順に咲きます。 秋から冬に咲く桜に十月桜や冬桜などもあり、桜の木は「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という言葉どおり通常切らずにいるのですが、いけばなではミザクラと彼岸桜との交配種で良永啓太郎氏による啓翁桜(けいおうざくら)を使用します。 また、3月までに開花する河津桜は、オオシマザクラ系とヒガンザクラ系の自然交配種です。 なお、ソメイヨシノはエドヒガン桜とオオシマ桜との交配で生まれたとされる園芸品種で、サトザクラ群に入ります。日本では、江戸末期から明治初期にかけて植えられ、だいたい気候に準じて咲くところから開花予報に使われるのもこのソメイヨシノです。 みなさんよく御存じだとは思いますが、春に白・淡ピンク・ピンク・薄紅・紅色などの花を咲かせます。大阪では、造幣局の桜は有名ですが、造幣局の近くである桜ノ宮辺りの桜も花見の宴を楽しむ人で賑わいます。花見気分でぶらぶら散策していると、とてもいい匂いのする桜や、淡い緑や黄色の花の桜に出会う事があり、何だか意外な感じで嬉しくなります。 サクラに限りませんが三大桜、五大桜に選ばれた桜も多くあります。 五大桜には、福島県の三春滝(みはるたき)桜(樹齢1000年、ベニシダレ)、山梨県の山高神代(やまたかじんだい桜)(樹齢1800年以上)同じく山梨県のエドヒガンザクラ、岐阜県の薄墨(うすずみ)桜(樹齢1500年以上、エドヒガンザクラ)、埼玉県の石戸蒲(いしどがま)桜(樹齢800年、カバザクラ)、静岡県の狩宿(かりやどの)下馬桜(樹齢800年、アカメシロバヤマザクラ)が選ばれており、この中の三春滝桜、山高神代桜、薄墨桜が三大桜と言われています。 万葉集では、桜の歌が44種であるのに対し、梅の歌が118首あることから、一般的に春に先駆けて咲く梅が愛されていたようです。その後平安末期には桜が歌人や庶民にも愛せられるようになり、左近の桜も左近の梅であったようで、雛祭りで耳にすることがある右近の橘も左近の桜もその当時珍重された木物を植えられていました。 サクラには観賞用と食用がありますが、日本国内での多くは観賞用に育てられたものです。食用・観賞用とは別に、樹皮の性質を利用して茶筒や小物入れなどの細工物に利用したり、桜木(版木)にも又家具・木刀等使われたりしていました。解毒薬や冷えに効く漢方薬(桜皮:オウヒ)としてや、スモークチーズなどの燻製用に木片としても使われており、生活に欠かせない植物のひとつでもあります。柳と共に美観を兼ねた護岸として河川沿いの桜も見逃すことは出来ません。 <いけばなと桜> 一般的に花屋さんで見る桜や、いけばなに使う桜の種類はあまり多くありません。緋寒桜・河津桜・彼岸桜・山桜・本桜(八重桜)・十月桜・啓翁桜等の種類になりますが、いけばなで特に大切にされる桜として山桜があります。この山桜は、未生流では、神に供える為に花瓶にさされた最初の花で草木花中の主と考えられる、又蔵王権現の御神木とされていますので軽々しく取り扱う事を許されていません。それ故に、この山桜だけは山桜のみでいけます。 伝書「原一旋転」に「桜散り景色挿け方の伝」「桜散り残りたる景色挿け方の伝」の2種が説明されています。山桜以外の桜はその季節を楽しむ事を旨として、応合い(あしらい)等を景色としての情緒・季節感をよりかもし出すようにいけます。 <いける時の注意> いけばなと季節感とは大きな結び付きを持っています。桜は春・秋・冬と一年を通じていけられる程多く見られます。だからこそ、「季節観」を表現する点において、応合う草花に気を配ります。 特に桜だけでいける場合、その季節を表現する事は簡単ではありません。いけた花の姿に季節を見ることが出来る様にいける必要があります。桜をいける心より、季節の桜をいける心が大切です。