日本原産の椿は、ツバキ科ツバキ属の植物で、学名をCamellia Japonicaといいます。日本原産だけにみなさんも馴染の深い花ではないかと思います。常緑性の高木で、樹皮はなめらかで灰白色の優しい印象をもっており、これはいけばなにおいても大切なポイントです。葉は互生、楕円形で先端が尖っているのが特徴で、葉の縁は細かな鋸状です。また、葉は厚くて表面に艶があり、この艶の濃い緑色をいけばなでは大切にします。 種子を搾った椿油は高級食用油や整髪料としても昔から使われています。日本の某化粧品メーカーが椿オイル配合のシャンプー・リンスを発売していますので、ご存じの方もいらっしゃると思います。余談ですが台湾でツバキ属の油茶から搾った油を使った雉(きじ)の唐揚げを頂いた事がありますが、沢山頂いても胸焼けなどありませんでした。オリーブオイルの様なさわやかな食感があったように記憶していますが、ツバキオイルが和製オリーブオイルと呼ばれる所以なのかもしれません。 なお、葉のエキスは、止血薬としても使われており、朝廷では毒消し(悪魔祓い)として祭事(稲幡)が行われていました。 このように、椿は古くから日本に親しまれてきた花であり、実際万葉集でも9つの歌が詠まれています※。 現在は、園芸交配が進み400~500種ほどあるといわれており、日本国内だけでなく海外でもカメリア・ソサエティーといった椿専門の愛好家の団体が各地に作られる程広く愛されています。フランスのCで始まる高級ブランドには椿をモチーフにしたデザインが数多くありますので、こういった点からも椿が世界で愛されていることが垣間見えると思います。 上述のとおり、椿は世界中で親しまれていますので、種類も数多くありますが、日本の椿には原種のヤブツバキやユキツバキ(別名サルイワツバキ。八重咲きの品種改良に貢献)、侘助(ワビスケ)などがあります。椿の花形での分類としては、一重咲きとして猪口咲き・筒咲き・抱え咲き・百合咲き・ラッパ咲き・桔梗咲き・椀咲き・平開咲き、八重咲きとして唐子咲き・千重咲き・列弁咲き・蓮華咲き・宝珠咲き・牡丹咲き・獅子咲きがあります。詳細な説明はここでは割愛しますが、是非名前で想像してみてください。 なお、椿は大きく分けると「冬の椿」と「春の椿」の2つに分類されます。 「冬の椿」は、白玉椿や侘助等に代表される白い花が多く、赤いものは藪椿くらいでその他は野生と言われています。白玉椿は枝ぶり・葉のつき方を注目し、「1種いけ(1つの花のみで生けること)」にする事で花そのものが持っている格調をいかします。野生である藪椿は正月の格式あるいけばなには使いませんが、寒い季節に赤い花は重宝な花材で諸木のあしらいに使われます。 一方で「春の椿」は、花が冬の椿に比べ大きいものが多く、花の色も豊富で変化に富んでいます。冬の椿は枝葉に美を求めることに対し、春の椿は花が美しいために葉を透かし過ぎると美を損なうことがあります。「神楽椿は干菓子をお盆に盛るようにいけるべき」と小原流二代光雲が説いていますが、花本位に扱うように考え、葉もそれなりに多く、枝を長くつかわず盛る様につかう事が適した表現であろうと考えられています。 いけばなでよく使われる椿は、上述のとおり「白玉椿」と「藪椿」の2種です。白玉椿は名も良く、「一種いけ」や「寄せいけ」等に使いますが、お祝事に使われることが多いです。未生流の伝書には、「誕生の花:五葉松か竹か白梅かに白玉椿をあしらう」「髪置の花:垂れ柳に白玉椿などあしらう」等の説明があります。 藪椿は、山茱萸(さんしゅゆ)のあしらいの他、花が赤いことや、色の順位、葉が美しいだけでなく枝ぶりも優しい点から、冬に葉より花を先に咲かせる木物のあしらいとして適材です。季節感や景色といった自然との関わりを感じさせてくれる花材です。 <いけ方> 幹に強い繊維が無いので折れやすい花材ではありますが、ある程度の揉め(ため。曲げること)は効きます。葉や花を多く付けても美しいものではなく、1枚1枚の存在感があり、表が見えている事が望まれます。 葉の使い方は、霜囲いの葉・挟み葉といった花を守る様な葉の付き方をしている所を表現します。 いけばなの表現の中で南画(文人画)の影響を受けたものがよくあります。梅の「女画」、春蘭の「鳳眼」といったような絵で表現する所を枝や葉で表現します。いけばなに求められるものの1つは、その植物の「らしさ」を表現する事です。そのためには、創るより引き出す事が望まれます。
※巨勢こせ山の つらつら椿 つらつらに 見つつ思しのばな 巨勢の春野を (巨勢山:奈良県御所市古瀬 当時椿の名所として知られていた)