「いけばな」においても菊は欠く事のできない草花であり、平安時代に五節句の思想と共に菊も渡来したと考えられています。 五節句とは、「人日(じんじつ)」「上巳(じょうし/じょうみ)」「端午(たんご)」「七夕(たなばた)」「重陽(ちょうよう)」のことで、それぞれ1月7日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日をさします。3月や5月の節句は、「桃の節句」や「菖蒲の節句」として馴染深いと思います。この5節句のうち、1年で最後の節句が9月9日の重陽の節句であり、別名「菊の節句」といいます。節句では、供物を揃え、不吉を祓う行事であったことから、今日のようなお祝いをする日へと変化しつつ伝えられてきました。なじみ深い3月と5月の節句では「無病息災」をお祈りする目的もあります。 菊は、「三香(さんこう)」「四君子(しくんし)」「五友(ごゆう)」「名花十友(めいかじゅうゆう)」「名花十二客(めいかじゅうにきゃく)」など宋時代の文人画の画題にされていたものも多くあり、中でも「四君子」はいけばなで表すこともあります。 「四君子」とは、蘭、竹、菊、梅の4種を草木の中の君子として称えた言葉であり、これらすべてを使った図柄や模様で、東洋画の画題とされました。本来、君子とは徳と学識、礼儀を備えた人を指し、文人(学識者)はみな君子になることを目指していました。蘭、竹、菊、梅の4種の植物が持つ特長が、まさに君子の特性と似ていることから、文人画の代表的な素材にもなり、菊は宋時代の文学者である陶淵明(とうえんめい)が詩文に詠んでいます。 いけ方は、大きめの広口(ひろくち)に上述の4種の草木をいけます。菊は白の一輪菊、蘭は芳香のあるものが好ましいものです。 菊は、数少なくても数多くいけても美しいものですが、季節の花を感じるために、少し大きめの広口に数種類の菊を大小にいけるとより秋の風情を感じる事が出来ます。 菊をためる(茎を曲げる)のは種類にもよりますが、茎の中が空洞という事で難しいものです。菊に限らず、茎の内部が空洞であるような草花をためる時は、少し茎を指先でつぶすすようにして他の草木に比べて緩めに力を加えます。中輪菊の場合は、18番ワイヤーを茎に差し込むと容易に形に出来ますが、菊に直接触れての感触で形をととのええたいものです。 菊の種類は大菊・中菊・小菊と大別しますが、大菊には厚物・厚走り・管物・一文字・等々有ります。他に嵯峨菊のような品種も多くあります。 ちなみみに、秋明菊(しゅうめいぎく。キンポーゲ科アネモネ属)や段菊(だんぎく。クマツヅラ科)はキクの仲間ではなく、それぞれアネモネ、シソの仲間です。