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未生流東重甫

第3回 未生流傳書三才の巻  《序説 注釈〈一〉》 

2024年5月のコラム


三才の巻序説には、初めて読むには難解な言葉が散見されます。元来、伝書は技術・思想共に学ばれた方に与えられるものでしたので自ずと伝書の用語も難解となっていたわけです。現在は教授者により免状を取得する事が出来るため、どうしても学ぶ時間が少なくなっているのではないかと懸念しています。まずは言葉の意味を知る必要があり、一読し、言葉の意味をある程度解すようになってから再度一読し、目に慣れ、耳に慣れ、と言葉が自然と感じられるにはある程度の時間を要します。

繰り返し学ぶことにより、伝書で説かれている意味を自身で感じ取ることができるのではないでしょうか。まずは伝書の言葉の意味を私なりに説明していきます。



・天円地方

天地の運行に花矩の根拠を求める。

「天は思索を超越したる宇宙の本體に命じたる称呼(よびかた)也 正理(真理)を天と云い。尊尚を天と云い。あるいは上(カミ)にある天と云う。ここに挙げたる天には其物を索モトめて見ても殆ど形を得る事が出来ない。さればこれを無と云い大虚と云うべきか。(四書* 中庸の第一章)」と説かれています。

*:論語、大学、中庸、孟子


天は、全てのものを生み、これを統裁するものを意味し、一切の生産の基礎を天に置き、これを発育せしむるものが地です。天地合力の上で生育が完成します。地は、天と対立するものではなく、天の所産であるから、天と地の関係はその作用の行われる姿としての根本的な区別ではありません。 生成は帰して天に集まります。この考え方は東洋の思想だけでなく西洋の思想にもみられ、インドの思想にもあるようです。


天を形に表して円とし、地を形に表して方形とします。天は動的・包括的であり、外に対し無限の拡がりをなすものと考えることから円の形で現します。伝書の解説では、天は円満無辺大のものとするとあります。一方で、地は静的であり天の作用の生じる所として陰陽の思想を根元とする方位の四極・節位の四時とを現すものとして方形で表します。また、伝書では東西南北の四極を持ち、春夏秋冬の四季をもって運行する所からとあります。天円地方の思想を形で表現するにおいて、円とその円に内接する方形との形から求められたものが天地和合の形となります。その形が未生流の基本である直角二等辺三角形(三角鱗形)です。


・縦横勾弦

天を円とし、地を方とする天円地方の思想を形に現し、その天地を和合させます。初めに天円を形どり、次に円相を描きます。その中心より左右上下へ十字の経緯線を引き、経線の上下と円相の線との接点を南とし北とします。

緯線の左右と円相の線との接点を東とし西とします。北より東、東より南、南より西へ角がけに直線を引き、西より北に終わるときは、自然の真形にて曲尺(かねざし)の生ずるものです。

形は調いましたが、東西和合を成さず、又南北心を通さざれば生々化々の用なし、ここにおいて南北を結ぶ経線より折て東西を合わすときは三角の鱗形となります。この三角鱗(直角二等辺三角形)が未生流の花矩(花の形の意味)となります。花矩は天地自然の和合に叶い三角形の鱗を持って挿花の形とします(挿花百練より)。直角二等辺三角形の長い一辺を弦とし、短い二辺を勾とします。縦横とは、この三角形の縦にしたものと横にしたものの事ですが、三辺の一番高い所を天とするところから、基本的に横姿の下向きはありません。


自然の真形にて曲尺(かねざし)と説明がありましたが、曲尺とは三角鱗(直角二等辺三角形)から考えられた尺度の事です。定義として、二辺の勾と一辺の弦の長さの割合が 1:1: √2となります。この1:√2の割合が美的黄金比として最も美しい縦横の比率になり、比率に基き創られた寸尺の物指しを曲尺(かなざし)と言います。


言葉の意味は難しい物です。たとえ言葉の真理まではいかなくても感じることがあるかと思います。解説することで些かの手助けになればと思います。

荀子の「道は近しと雖も 行かざれば至らず」の思いでまずは一歩進んでみていただければと思います。

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