「華道玄解」 閲覧6 2020年7月のコラム
この玄解を読み進むと、いけばなを教える1人として「自分に足りないものは何か」を考えさせてくれます。
ただ単純に花をいけることだけを学び、その学んだこと、形を創ることをいけばなと考えて学びそれを教えがちですが、
今のいけばな界で、師と崇める事の出来る人がはたして何人ほど居られるのか解りませんが、その方たちは年齢に問わず今も学び続けていることと思います。そしてとても幸運なことに私は良い師にめぐり逢うことが出来、色んな事を学ぶことができました。
ただ単に学んだところで得る事が出来るものは少ない。誰が言ったか忘れましたが、こんな言葉があります。
不憤不啓(ふぶんふけい:憤せずんば 啓せず)。現在の我々にとって的を得た言葉ではないでしょうか。何事もすぐに答えを求めがちな今の世界で、自分なりに一度しっかりと考えを施す、そしてたどりつかない答えを探し求め、最終的にはしっかり腑におちる。本来のいけばな芸術もそうしたものではないでしょうか。
今月の華道玄解では「体用相応の巻」に説明がある“右旋左旋(うせんさせん)の論”を三才の巻研究資料の中で取り上げていますが、再度取り上げます。
右旋左旋について、華道玄解の本文では以下のように説明されています。この文節では、あくまで自然の摂理を説いてます。
右旋左旋の伝(本文写し)
右旋左旋とは、陰陽の兩気が四季の氣候に應じ運行なし又是れに随って草木の宿根が左右旋廻して生ず、此の草木の状態を見て、兩気運轉の方行を知覺する法なり陰陽の兩気は各其の行動を異にす陰氣は右に旋廻し陽氣は左に旋廻すといふまた地中に陽氣含時は空中に陰氣を含む地中陰氣を含む時は空中に陽氣を含むといふまた此兩氣地中空中ともに平行して運轉する時ありその區別左の如し。
如斯四季に依て兩気運行の巡路を異にす、而して地中に陽氣を含む時に生ひ出る草木は宿根左に旋廻して發育す地中に陰氣を屬む時に生ひ出る草木は右に旋廻して發育す
兩気平行して地中空中とも寒暖等しき時に生ひ出る草木、其宿根直立して發育す是れ則ち草木天地の氣に違はずして生存なす所以なり。凡宇宙間の森羅万象大抵体質は皆此理に随ふ者なり。然れども人類は各氣質の變ずるが故に事理を誤り。事實の顚倒なす事あり能々考ふべき事也。
当然のことではありますが、読む側が、その自然の摂理を人倫の法と照らして考える必要があります。この文章は、伝書「体用相応の巻」の説明補足的な位置づけだと思います。
なお、伝書の方が季節との関係を解りやすく説明しています。
伝書「体用相応の巻」〈左旋右旋の論〉から一部抜粋します。
それ天は陽にして左旋し地は陰にして右旋するといえども見る事あたわず、草木を以ってこれを考うるに、地中に陽気ある時生ひ出づる草木は左旋し、地中に陰気ある時生ひ出づる草木は右旋す。
要約すると次のとおりです。
☆地中に陽気を含むは冬至なり。この陽気地上へ発するは春分なり。:地中は陽・・左旋に生ず
☆地中に陰気を含むは夏至なり。この陰気地上へ発するは秋分なり。:地中は陰・・右旋に生ず
★春分より夏至迄は地中地上とも暑寒に片よらず陰陽和合の時候なれば:右旋左旋等分に巻く
★秋分より当時迄は地中地上とも暑寒に偏よらず陰陽和合の時候なれば:右旋左旋等分に巻く
*又、春分より秋分までに種を蒔きて生れ出づる物は:地中陰・・皆右旋す
*又、秋分より春分までに種を蒔きて生れ出づる物は:地中陽・・皆左旋す
誠に草木は天然寒暖の恵みに随いて更に私心なし。
これを愛する徳に因りて広大の理自から明らかなり。
尚、篤と考え陰陽の働きを悟るべし。
以上のとおり、少しでも伝書を解やすくするために、書き替えてみました。
伝書では、どの項目においても、読者自身が考えを施すように、また、理解を深めるように収められています。
この左旋右旋に巻く草木は稽古花や軒下、鉢物としてよく目にする中で、冬に葉が左旋するものの代表が水仙です。夏に右旋するものの代表が朝顔ではないかと思います。蔓が右旋しながら支柱に絡みます。左旋右旋等分に巻く葉に葉蘭(はらん)があります。この葉は通年物として季節を問わず生じます。
逆に、夏に左旋する葉もあります。これは水物で陸を陽とし、水を陰とする処から陰陽が替わって生じる様です。
時期の物はその時期にご自分の目で一度確かめてみて下さい。草花の葉の捩れは、倒れない様に強度を得るためのものではありますが、季節との関わりがこんな形で表れていることに驚きさえ感じます。
来月は、「三才和合の總説」に進みます。
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