• 未生流東重甫

「華道玄解」 荒木白鳳著 閲覧28

「華道玄解」 荒木白鳳著 閲覧28 2022年8月のコラム

 

8月に入り、連日異常な暑さが続いている日本列島ですが、この気候とは裏腹に、今年は8月7日から24節気では立秋にあたります。立秋前の18日間が雑節の土用で、今年の土用の丑の日は7月23日と8月4日の2度あり、いわゆる鰻を食す日があります。土用に鰻を食すようになったのは江戸時代から、と言われていますが、実は古く万葉集にも夏バテに鰻を食すことが記されています。鰻に限らず、ご自身に合った夏バテ予防を見つけてこの酷暑を乗り切って下さい。

遠く子供の頃を思い出すと、7月21日頃から8月31日まで約40日間と長い夏休み。それこそ山に虫取り、海に海水浴、煙を吐く蒸気機関車に乗って母の里にまでよく行ったものです。当時は、夏には海が近く当然、川遊びも出来、冬には朝起きると銀世界が時を忘れさせる、炭焼きの乾いた赤い炎が自分とは違う世界を感じさせてくれる場所でした。そんな思いでふるさとと呼ぶべき所へ行っていた事を思い出します。夏休みや冬休みは楽しい世界をのぞける日であった様に思います。そんな世界を感じる時代は過ぎたようですが、今もゆっくりと進む日々を感じたいものです。贅沢ですね!


学ぶ事も遊ぶ事も含めてですが、何事においても「そこそこ」が良いのではないでしょうか。「過ぎたるは及ばざるが如し」(論語)という言葉は誰もが知る言葉ですが、中々守れないのが欲です。欲があるから成長がある、成長があるからまた欲が生れる。歴史が物語る輝かしくも哀しい事実です。

いけばなに関連して陰陽五行について話す機会が多いのですが、この五行の中から、いち早く用いられたのではないかと思われる「人の道」いわゆる「五常」ですが、そんな中から一つ紹介します。


「仁に過ぐれば弱くなる 義に過ぐれば固くなる 礼に過ぐれば諂(へつら)いとなる 

 智に過ぐれば嘘をつく 信に過ぐれば損をする」  

(伊達政宗 家訓より)

後に続く文もあるのですが、この五常に述べられているものだけで十分考えさせられます。酷暑とはいえ、冷たいお酒も良い物ですが、飲み過ぎには気をつけましょう。


さて、前回は華道玄解の閲覧 「養の巻參考資料」の『人類養の基礎』を読み進めました。今回はその続きを読み進めたいと思います。

『人類養の基礎』 

“本来此土地は萬物共住の處なり。更らに善悪の別なし分に應じて、自然定る所なり。故に自然の命に随って此地に處す。家宅は風雨を凌げば足る。衣は是寒暑を防ぐの要品。世相は自然の時なり。更らに善悪の相ある事なし。善悪の世風さらに、己れに關せずと悟了す。善世は人類墜落の基因。惡世は覺醒の基因と悟了す。故に如何なる惡世の災害に遭ふとも。惡世の地に處すとも。あくせいの家宅に住すとも、是れ自然の時とし。自然の命と忍受して、更らに愁苦ある事なし。是れ古への聖賢皆如是なり。然れども此の如きも、幾多の修行を重ねて悟了する者にして、常人の爲し得ざる所。凡人の及ばざる業なり。

常人の本道は前項に記す五行の分類中の、五常の中核たる信の一事を先づ法則として、人倫の斯道の眞中たる意識の運用を定め。修練して精神の顚倒なからしめ。自然の教へに順應して世に處し。他と和順して前進する事人類育成の基礎とす。是れ人類の表道なり順道なり本道たる處なり。

此の斯道に倚る時は必らず。自然の祐け有りて完全なる人種たる事を得ると信ずべし。自然に違法なしと信ずべし。自然は必ず汝の体を健全ならしむべし。神佛は必ず汝の誠意を感應して識力を授べし。

人類の個身の力は弱き者と知るべし。我意の惡識は頼み難きと知るべし。和合心を以つて人類向上の基礎たる事を考究すべきなり。

故に華道は即人倫の正道自然の教に順應するを以つて萬物養の法と定め人類養育の法とする者也。“


これまでの章に比べてこの章は読み易く感じましたが、見慣れてきたのかも知れません。石の上にも三年、と言いますし、勉学も三年続ければ漸く何ものかが見えてくる様に思います。

「華道玄解」ではいけばなの形ではなく、人倫、人道に重きをおいて説かれています。

『人間から「心」という物、「道理」というものを除いてしまっては唯の人の形をした一箇の膿血ぶくろ、一塊の白骨に過ぎぬ。する事とて、きまりきったあくどいものではないか。』

(陳 白沙 禽獣説より)


今の世にあまりにも合いすぎる忠告ではないかと思い、あわせて紹介しました。

いけばなに少し関連のある(四君子に例えられる蘭=黄山谷、竹=蘇東坡、梅=林和靖、菊=陶淵明。又五山の僧侶に東坡山谷味噌醤油と言われるほど愛重された)古人の言葉を借りて、学ぶべき一言を紹介します。


『士大夫三日書を読まざれば則理*義**胸中に交わらず。更(すなわ)ち覚ゆ、面目・憎むべき、言語・味なきを』

我々いけばな家が常に心しなければならないことではないでしょうか。面目から面構えとは、面の皮が厚いとはいわれますが、体内のあらゆる器官・機能の尖端の過敏点であると皮膚科学者も認識しています。人間40年50年も活きていれば顔相に出るものです。

その顔相を読み取るのもまた修行が必要です。


次回のコラムは『生物養の素因と助成物』『四時順逆の風足』『草木養の主要』に進みます。なお、次の項までが「養の卷參考資料」です。

*:事物の法則

**:行為を決定する道徳的法則

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