「華道玄解」荒木白鳳著 閲覧24 2022年4月のコラム
晴れ晴れと四月を迎えることが出来ました。いたるところ春色が飛び跳ねているようで、心もいささか開放感に喜びを感じています。ともあれ、ここ数年の世情を見る限り、いわゆる春の開放感に浸ってはいられません。3月といえば卒業シーズンですが、米英の大学にはcommence という「世に出る始まり」という意味の単語の方が馴染むようにも思え、この意味の通り、未知の経験を受け入れる時期でもあります。この年度初めを、1年の始まりとして受け止め、次の出会いを楽しみたいです。
とはいえ、近年のいけばなの世界の動静からは今の世情では仕方ないところもあるとはいえ、中長期的な期待が持ちづらい、というのも正直なところです。芸術の世界でも動くときと静かなときがあります。もちろん、自戒の意味も込めてですが、指導者の問題も否定できません。
いけばな界ではいけばな人口を増やすことを目的に、子供だけでなく、一般向けにいけばなを気軽に経験できる機会を提供する努力をしています。確かに1つの方法としてはアリだとは思いますが、何でも増えれば良いというものでもありません。「いけばなの良さ」を「いけばなの必要性」にまで引き上げる努力が、この時代特に必要なときだと思います。
「仁に過ぐれば弱くなる。義に過ぐれば固くなる。礼に過ぐれば諂(へつらい)となる。智に過ぐれば嘘をつく。信に過ぐれば損をする。」
五行の五常も、伊達政宗の言葉を借りると戒めとなります。逆に、何事も過ぎる事がなければ、薬になる例えから、やっぱり礼を尽し、自分に強く、しっかり学ばなければならないのが教える立場の人間に求められるのではないでしょうか。特に教授や師範の名を戴く以上は、心せねばならぬことではないでしょうか。
朱熹(朱子学)では「我が身に徳をみがき 其れに依て人を修める」と説かれていますが、いけばなでは技術と心修めることになるのか、とまだまだ卒業とはほど遠いところにあるようです。
荀子曰く、
「素晴らしい人間性というものは その人が後天的に努力によって 身に着けていくものである」
孔子曰く、
「止りさえしなければ どんなにゆっくりでも進めば良い」
このような言葉を聞くと、自分のペースで目標に向って努力を重ねれば良いのかと心安らぎます
さて、少し前置きが長くなりましたが、前回のコラムでは「華道玄解」『五行の所囑(しょく)と解説』より『金に属する部』の閲覧を進めました。
今月は五行「木火土金水」から『水に属する部』を読み進めます。
『水に屬する部』
方に曰く北
北方は極陰水の位なり。太陰の水初めて生ず。處。故に水の本位とす天氣起る處。北星の位なり
星に曰く辰星
辰は五星の中。水星の名なり。辰星と云ふ宰相の祥なりと云ふ、此星春分に西北の奎婁宿の方に見へ一ヶ月に一宮を行き一ヶ年に一周天すとあり。亦冬三ヶ月を治むとあり
色に曰く黑
五色の中黑色は是れ原色なり。北方太陰の位にて一陽来復の位にて陽の一氣起る處。
亦生物始りを子と云ふ。十二支の初め(子は則子なり根なり子の刻は)則極陰にて閤黑なり。天の一陽の氣太陰に和合す時。未だ此水堅質にして流出せず是れ玄水と謂ふ 玄は、黑なり。原なり。故に水色種々ありと雖も黑色を以つて。本色とす
氣大(“に”が抜けていると思います)曰く
精は五氣の中にて。陽氣の原たり精なり靜なり清浄なり陽動の氣なりと雖も時至らざれば未だ動ぜざる氣なり。陰の極陽氣時來たりて動ず故に精は幼なり。北水堅質にして流れざるに。比す純清の氣にて未だ混ぜざる氣なり。
卦に曰く坎
卦は八卦水卦の名なり。卦は陷なり、陰中に陽の陷没する象なり。故に危き意あり進退俱に險ある意なり。潜在する意あり忍耐する意あり。外柔くして内強き意あり、水質能く他に順ふと雖も終には強を破る故に外柔内強と謂ふ。人類中男の象也
人に曰く智
五常の道智は自ら己を守る道なり、智は深く考究して彌々迷はず。水は萬物の生命を養ふ食素たり。智は正邪を識別して萬法を正しく行はしむ人倫の道なり。水の性常に冷清なり。智者亦能く冷靜なり。故に智は水に囑す。
然れども水質萬物の養素なれども原水は。賢質にして陽氣を受けざれば其用を爲さず。智も亦如是。智あって勇なき時は愚に等し。智者能く識力具備すとも。勇なき時は機を失なふ
時に曰く冬
四時の中冬は萬物収藏の時なり。陽の氣収蔵して地中に潜。草木の性。亦精気収蔵して根に隱れ。氣は果實にかくる。生物は陽氣に随って動ず。故に混中多くは地中に潜む。是れ収蔵の證なり。
神に曰く武
武とは四神、の中。北方の護神の名なり。此神を玄武と謂略して武と云ふ
臓に曰く腎
三才圖會に曰く腎は作強の官。技巧之より出づ。水に屬して精を藏す。精は有形の本也。精盛んにして形を成す時。作用強き故に作強の官となす。水の能く萬物を化生し。精好測り難きが如し。故に技巧是より出づと云ふ臟も臟の本。精の據處なり
蕋中の一點實に生身立命の原なり。則命門なり。左右の兩腎は生命の蕾なり。陰の位也水臟たりと雖も。相火寓す。水中の龍火に象とるとあり。情は恐なり甚だしく恐るれば腎を傷る
味に曰く鹹(けん)
鹹は五味中にて、甘と俱に味の本原たり鹹は水の原味たると雖も。亦萬物を養ふ味の本也甘鹹の二味は命脈を保つ養素なり調味の原素たり
數に曰く一六
一は水の生數にて壬(みずのえ)の位なり數の起元たり。六は水の成數にて癸(みずのと)の位なり
天干の數一より十まで萬物生成の根元を知らしむる便法なり陽物を生ずれば。陰氣其体を調成し、陰氣物を生ずれば、陽氣其体を調成す。萬物の生成皆陰陽の循環に倚てなる
十の字(一 Ⅰ(天地)の交合に依)って成る。則十なり亦智慧と譯す。慧は廣きを示す(一)(エ)智は深きを則「Ⅰ(チ)」智慧平等にして事成就す。故に十の字は円満成就の象なり
音に曰く羽
羽は五音の中唇の音、水音なり、五十音中ハ行(ハヒフヘホ)とマ行(マミムメモ)の音なり、發する時唇に觸れて出づるにより唇音と云ふ。宮商角微雨(雨ではなく、羽ではないかと思います)の五音の名皆各の其發音時に。主として觸るゝ所に倚って起る
「養の卷參考資料」の『五行の所囑と解説』から木火土金水それぞれに属する部類として五方、五星、五色、五氣、易卦、五常、五時、五神、五臓、五味、生数、成数、五音の説明がありました。他にも五事、五徳、五干支、五虫等があります。漢医学でも『五臓の色体表』としても五行の所囑に分配されるところも多くあります。中でも五腑、五親、五根、五主、五香等少し気になる多くの物が分配されています。
次回は、『五行の所属十二種の應用』に読み進めたいと思います。
三才を世に知らしめた荀子の性悪説の意味するところを序文で紹介しました。何ものも努力なしで求められる物ではありません。しかし、自分の目標は自身で決めて求めることは出来ます。荀子の「一日の目標があれば 日々の失敗など気にならなくなる 修身の楽しみありて 一日の憂いなし」という言葉が心に響きます。
私にとって日々進歩の目標があるいけばなが、そうであるような気がして、またそれが嬉しくも感じます。
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